LOST CANVASの章
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「タナトス様…御許しをっ」
わなわなと体を震わす冥闘士とそれに連なるように膝をつき、許しを請う影達
死を司る神の投影に誇りなど捨て、ただただ神の怒りが落ちないことを願う醜態の数々
それを見せられた所でタナトスの怒りが収まることはなく、突き刺すような声が響く
“言ったはずだ。やめろと…”
「ですが!攻撃が当たったのは、乙女座の黄金聖闘士、」
“言い訳か”
どすのきいた声に男は、それ以上言葉を出すことが出来なかった
そんな不甲斐ない姿に、タナトスは垣間見た姿を思い出す
乙女座の向こうから覗いた頬に伝う、紅い雫
白い肌が下衆な者により傷つけられた事実はタナトスの怒りを呼ぶのに十分だった
“一度、その身を第五獄にて焼かれるがいい”
死の神から下った言葉に、冥闘士達の悲鳴が響き、それも次第に薄れていく
「その様子では、失敗したようだな」
「ヒュプノスか。元々、冥闘士に期待などしてはいない…」
ハーデスの捜索から帰還したヒュプノスは片割れの様子で大方のことを察する
「他にもあるようだな」
「……聖域に―――…ハクが居た」
いつもとは違う怒りの濃さに言葉を掛ければ、返ってきた答えにヒュプノスは眉を上げる
「紡ぎ手としてだ。そのハクに冥闘士如きが傷を負わせた」
タナトスの怒りの気持ちが分からなくもないヒュプノスは、記憶の女を脳内に描き、タナトスの言葉が止むと口を開く
「ハクが見つかったのならば、連れ戻すことが先決。だがタナトスよ、ハクの前で無駄な血を流させるな」
タナトスの性格上、ハクを連れ戻すためならば、強硬手段を取るだろう
ハクが聖域に居るならば、その聖域の命を根絶やしにしてでも
それを見越してヒュプノスが言えば、タナトスは眉を顰める
「お前はいいのか?ヒュプノス。あの聖域に―――殺された場所にハクは居るのだぞ。忘れた訳ではなかろう?」
もちろん、初めてハクを失った屈辱をヒュプノスは忘れたことなどない
出来ることならば、すぐにでも忌まわしい聖域からハクを引き離したいのはヒュプノスとてタナトスと同じ
「何れ時が来る。それまで待てばいいだけのこと」
そう、待てばいい
我々がハクを求めるように
ハク自身も我々の元に戻ることを望んでいるのだから