LOST CANVASの章

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冥界だろうか?



崖から飛び降り、地上から消えさるはずだった未だに意識のある自分

ならば、今閉ざされている瞼を持ち上げれば、目に飛び込んでくるのは死の世界だと想像した

だが、鼻を掠める匂いと肌に伝う温もりに、ハクは此処が冥界でないことを悟る


「目が覚めたか?」


絹の皇かな感触を手さぐりで確かめ、視界に色を捉えれば、白い世界

何処かと想うよりも早く、耳元で囁かれた声にハクは小さく首を動かす


「…タナトス……っ…」


振り仰いだ表情にハクは、意識を閉ざす直前の出来事を思い起こし、彼の傍からさっと身を引いた

自身の腕から逃げ出し、這うように遠ざかる姿にタナトスは面白くなさそうに視線を送る

その射抜くような視線を受ける中、ハクは彼から受けた行為が脳裏に過り、それを振り払うように口を開く


「…此処は何処?」

「我らが主、ハーデス様の城だ。そして、これからお前が我らと共に過ごす場所」


タナトスから返ってきたフレーズにハクは頭が真っ白になる

その様子を窺っていたタナトスは、表情を変えることなく白い衣装に包まれた肢体に近づき、ハクが瞳を揺るがすのも構わずに、その繊細な腕を引っ張った


「その意味がわかるだろう?お前はもうジャミールには帰れない。お前の居場所は、此処しかない」

「…………」

「―――お前は、冥界の者なのだ」


間近で言われた言葉に胸が痛む

冥界の者という本当の意味をハクは理解できなかったが、ただそれが聖域側である友らと対峙するという意味があるのは明白だった


「なんで…なんで、私なの…っ……私は、ジャミールで、…んっ…!!」


声はそれ以上続けられず、ハクはまたしても男にされている行為に身体が熱くなる

それと同時に、最初の時とは違い、小宇宙と共に流れ込んでくるモノにハクは心で小さく悲鳴をあげた


「っ……ぅ……」

「視えたか?それはお前自身だ。お前は神話の時代より、冥界に与する者」


脳が捉えたのは、双子神の間で微笑む一人の女性だった

その色は今の自分とは正反対であったが、顔立ちは自身と瓜二つであり、ハクは認めたくない事実が浮かんでくる気配に身体を竦ませる

記憶を取り戻せていないとは言え、自分らと過ごした日々を拒絶するハクの姿にタナトスは顔を顰めた

そして、その身体を押し倒し、ハクの動きを封じるように圧し掛かる




「お前の幸せは、我らの傍にしかない」




事実から逃さないとばかりに



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