LOST CANVASの章
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「私が怖いか?ハク」
ヒュプノスの胸に包まれ涙が留まる頃に、頭上から掛った声
憂いを帯びた眼差しを見つけ、ハクは否定をした
「いいえ。怖くありません…」
全て包んでくれる暖かさをくれる人物にハクが畏れを抱く理由などなかった
彼だけではない
先ほど立ち去ったタナトスに対しても、ハクは畏れとは違うモノを抱いていた
「そのような話し方はしないでくれ。お前に一線を置かれると、私は悲しい」
ヒュプノスの声色に影響されてかハクは辛くなる
「…何で、こんなに優しいの?」
「それは、お前が私の知っている“ハク”だからだ」
タナトスが口にしていた話と、彼が見せた映像がハクの頭を駆け巡る
それらから察する事実と、襲いかかる感情により、己が何者かをハクは薄々感じていたが、それでも否定をしていたかった
「ジャミールが恋しいか?」
「それは…」
唇を結び、受け入れられないハクの様子を察したヒュプノスが言う
恋しくないわけがない
恋しがれないわけがない
なのに、それ以上に私は
労るように自身の髪を撫でる仕草がハクの思考を麻痺させる
「恋しいよ…だけど私は帰れない。人を殺したんだもの…戻れても、また誰かを殺す。もう、あの場所に私の居場所はない」
ジャミールの縁を断ち切っているように言ったのは、ジャミールに彼らの手を伸ばさないためだった
そして、自身の理性を保つための最後の強がりでもあった
「安心しろ。お前が此処に居れば、私は十分なのだ」
「どういうこと…?」
「故郷を心配しているのだろう。私はお前が悲しむ姿など見たくない。私は、ジャミールの地に手を出しはしない」
なのに、神はハクの思考を容易く読み取っていた
「でも、本当だから。私にはもう、帰る場所はない」
自身の言葉が胸に刺さりこむ
それは、本当だった
もう、ハクは帰ることが出来なかった
人を簡単に殺してしまう自分には、もう
「そのように言うな。言ったであろう?これからは、我らが一緒だと。私は、お前の帰る場所となろう。お前の居場所となろう」
込み上げる震えを殺しても、全てを見抜いているようにヒュプノスは微笑む
「だから、私の前で強がることはない」
挫けてしまいそうな自分がいる
全てを投げてしまいたい自分がいる
「…ヒュプノス…」
「ようやく、名を呼んでくれたな」
「私は…―――」
穏やかな眠りの神の仕草が、ハクを愛でる
―――…此処に居ていいの?
神話の記憶を見せるように