LOST CANVASの章
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「…雲の流れが速いな」
冷たい風が白羊宮はもちろん、十二宮を包むように聖衣の音を運んでいき、遠くに消えていく
その最中、朝日に染まる天にシオンは視線をやっていた
いつもより赤みを増した空には透けるような雲が泳ぎ、情景を変えていく
「何をボーっとしとるんじゃ?」
「童虎!!」
夜を追い払う景色に吸い込まれるように魅入っていれば、自身が奏でていた音の代りに親友の声が響き、シオンの意識を戻した
「もしや、ハクのことを考えておったのか?」
「っな!?何故私があいつのことを考えなくてはいけないのだ!」
「素直じゃない奴じゃのぉ…それよりも、手首の傷をどうにかした方がよいぞ。そのようにホイホイと血を流しているのをハクが知れば、怒らせてしまうぞ」
呆れた感じにため息を一つ吐き、童虎の視線が未だに赤い雫を肌に奔らせる親友に注意を促す
それによりシオンは、手首の傷にようやく意識をやれた
朝日により赤く色付いた空よりも紅い血が、また一つ落ちる中、シオンは包帯を手に取った
「ハクは心配しすぎなのだ」
「そうじゃの。心配させるのが嫌だからと、ハクが来る以前に聖衣の修復に没頭していたことを内緒にしといてくれと頼みに来たのを思い出すわ」
「っ―――別に私は!」
最近はハクによって手当てされていた手首を前のように自身でやっていたが、童虎の言葉に思わずシオンは慌てる
それにより途中まで巻いていた包帯は緩んでしまい、シオンは落ち着くためにも傷の手当てに集中した
「ハクは今居らぬのじゃから、親友のわしの前でくらい照れんでも良かろう」
「……童虎…」
恨めし気な視線を送るも、その表情は心なしか赤いため、童虎は笑い声を小さく漏らす
「それより何しに来た?」
「そう睨むな。早く目が覚めたから、おぬしと手合わせしようと思ったんじゃ」
にっと屈託のない童虎を尻目にシオンは包帯の結び目を締めると立ち上がる
「いいだろう。今日こそ、お前との勝敗に決着をつけてやろう」
「はっはっは!それはよいのお」
ハクのことでからかわれたことへの憂さ晴らしをするかのようなシオンの言い草に童虎は、人気のない地に辿り着くと構えを取る
「一本勝負でよいな」
「問題ない」
辺りの景色が太陽の光で色を変えていく
風が雲の流れを速める
世界が目まぐるしく、歪んで、逝く