LOST CANVASの章
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音が鳴る事を、自分以外の者が存在する事を、光が差し込む事を
全ての侵入を許さない宮は、彼自身の心を反映しているようだった
ああ、まただ
苦しむ声が、迷いに嘖む声が聞こえる
この世は、生ある者にとって暗い世界
不安定な、世界
悲鳴が轟き、血に染まり、争いが途絶えない
そんな世界での生に、意味などあるだろうか?
「アスミタ、どうしたの?」
永遠に光が見えない真っ暗な空間が、変化する
何ら変わっていないはずなのに、その声は確かにアスミタの世界を変えていた
「ああ、なんでもないのだよ」
「でも、顔色が優れないよ?」
他の者と違う、特別な声が心配そうに空気を震わす
それに合わさり、相手の肢体が動き、気づいた時にはアスミタの額に温もりが伝う
「熱はないね…ご飯は食べてる?」
一瞬感じた温もりは、彼女の声と同調して世界に何かを入れる
それに名を付けられず、アスミタが考えていると、不機嫌に自分を呼ぶ声がした
「アスミタ、聞いてる?ご飯食べなきゃ駄目だよ」
「ああ、わかっているよ」
「絶対だよ!アスミタは、ただでさえ他の皆に比べてやせ過ぎなんだから」
「それならば、ハクの方がやせ過ぎではないかね?」
「私は一応女の子なんだよ!細いとは言え、男のアスミタより重かったらショックだよ……そりゃぁ、蟹に食べ過ぎとか言われるけど…」
不貞腐れたように唇を尖らした少女だったが、“今は蟹のことはどうでもいい”と蟹の事を思考から追い払うように頭を振る
「そうだ、アスミタ!偶には一緒に食べよう!」
「…私と、君とでかね?」
「嫌?」
良い案を思いついたとばかりに提案してきた事にアスミタは少なからず驚き、少しの間を置き尋ねる
少女は嫌な思いをさせてしまったのかと、先ほどとは違い、眉を寄せていた
「嫌と言ったつもりはないのだが…君と一緒に、か。君が構わないなら、私は構わないよ」
「本当に!?」
声を弾ませ、寂しげな空気を打ち払うと少女はアスミタの顔を覗き込むように近づく
急に距離を狭めたことで、少女は自身が起こした行為に恥ずかしさを生まれさせ顔を俯かせる
けれど、それにアスミタは嫌な思いを抱く事はなく、優しく彼女の頭を撫でた
「楽しみにしているよ」
面を上げた少女の視界に飛び込んできたのは、微かに微笑むアスミタの口元だった
それに少女は嬉しくなり、顔を解けさせる
「―――ハク」
少女が喜んでいるのを感じ取り、アスミタの心は酷く穏やかになっていた
少女―――ハクに出逢った事で、アスミタの世界は確かに十数年間と違うモノが見えていた
ハクが居るだけで
ハクが声を聞かせてくれるだけで
ハクが温もりをくれるだけで
ハクが、自分に
笑顔を向けてくれるだけで
それはハクに過去の遺物を見出していたからなのかもしれない
だとしても、アスミタにとってハクは、追い求め続ける理に何かをくれる存在だった
そう、“絶望”以外の何かを…
だが、それも今となっては
「 ハクが、死んだ … ? 」
遠くに消えていき
闇が
あの頃と同じように、襲いかかってきた