LOST CANVASの章
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沈黙ばかりが支配するテラスには、ハクが起こす音しかなかった
周囲を静寂の森に囲まれ、深い空に覆われた古城
切り取られた一枚の画のように、ハクが触れることを許される範囲には音も動きもなかった
自身と、部屋を訪れてくれる彼ら以外、誰もいないように感じてしまう風景
心の余裕を持つようになり、ハクはふと感じてしまう
あの森の向こうには何があるのだろう
この城には、この部屋以外に人は居ないのだろうか
それを確かめたいと思うも、この部屋以外に通じるための扉が存在いないため、ハクには確かめる手段がなかった
ならばと双子神に頼むという手段も一つとして考えたことがあったが、扉がないという思惑から、それも無理だと悟っていた
きっと、許してくれない
扉がないのも、そのためだもの
例えハクに優しいオネイロスとて、この頼みだけは聞き入れてくれないことは、彼がヒュプノスに対して従う様子から容易に察していた
「ずっと外を眺めて、何してるの?」
思わずため息が零れそうな時、背後から掛った聞きなれない声に心臓が一度高鳴り、体が反応する
「いやだなぁ。そんな脅えた目をして」
「…だれ?」
「さぁ、誰でしょう?」
面白がるようにくつくつと笑う青年に、ただハクは視線を奪われていた
知らない男が何者かわからないため、油断出来ないという心境もあった
だが、それ以上に、その見た目が視線を逸らすことを、許さなかった
今まで出会ってきた、誰とも違う
ぞっとする美しさによって
「まぁ簡単に言えば、俺は双子神の知り合いなわけ。わかった、ハクちゃん?」
妖しく微笑み、真紅の瞳を細めた青年に自身の名を言われ、ハッとする
「二人の知り合い?それに、私の名前を」
「不思議そうだねぇ。まぁ、記憶を取り戻せられるまでだろうけど」
「なら、貴方も…昔に」
「そういうこと」
風が動き、謎めいた青年がハクの目前に移動する
反応できないままでいると、青年はその様子を楽しみつつ、背後の景色へと目をやっていた
「外、出てみたいんでしょ?」
「え?」
「でも、あの二人が許してくれないのは目に見えているから我慢しているわけでしょ?まぁ、タナトスは嫉妬深いし、ヒュプノスは心配性なわけだし、当然だよねぇ…だから、こんな結界張る真似までしてるんだから」
言い当てられたことに驚いているのに続き、彼が言った最後の言葉がわからなかった
そんなハクの心情さえ見抜いているような青年は、小さく笑みを刻んだのを見せると、ハクの耳元に唇を添える
「ここから、出してあげようか?」
悪魔が囁いたかのように、吐息が耳に届く