LOST CANVASの章

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握っていた手を放したシオンは、ハクレイに弟子入りすることを告げた後、ハクレイが呼び止めるのも聞かずに自身の家の方角へ帰って行った



―――寂しくないなんて、あるわけないじゃん




その間、シオンがハクに振り向くことはなく、ハクはその小さくなっていく背中をずっと見つめた

「…ハクよ」

ハクレイは、追いかけることなく、友の姿を見つめている少女の名を呼んだ
けれど、彼女がそれに反応をすることはない

ハクレイは、こうなることがわかっていた

幼いとは言え、聡いハクが子供らしく振る舞うことなく、シオンの背中を押すことは予想していた
そして、そうしなければ、シオンがこの生活から離れることを迷い、聖衣の修復者としての道を歩まないことも

だから、このような形を取ることを選んだ



出来ることならば、あの曇りない時間を続かせてやりたかった



ハクレイは、常に一緒にあり、笑顔を振りまく二人の無邪気な姿を想いながら、胸の中で呟いた


「…すまぬ」


長の謝罪の言葉がハクの脳に届く中、ハクはシオンの姿を焼き付けるようにずっと視線を外さなかった


…シオン


心の中で叫んでも、彼は振り向かない
後悔がハクに押し寄せてくる


シオンッ―――


もう二度と振り向いてもらえないと恐怖し、後悔に押しつぶされそうになった時だった



「――――!!」



少年の姿が霞み、ハクの瞳に黄金の輝きが映った


温かみのある輝きを放つ、鎧

それを纏う、誰か


その姿は、話に聞いたことがある黄金聖闘士のようにハクは思えた

そして、その人物が兜を取った姿に驚愕する


風に吹かれ、靡く長い髪


垣間見えた凛とした横顔


その青年が友と重なった時、その光景は幻のように消えていた




―――ああ…これで良かったんだ。これで




シオンは黄金聖闘士の道を進み、ハクは別の道を進む



そう知らせるような幻に、ハクは完全に消えてしまった友を想い、空いた掌を握りしめた



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