LOST CANVASの章

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いつもとは真逆に下山するための道を進む
町に買い出しに行くのは、決まって大人だったがハクは何度かこの道を通ったことがあった
数えるほどしかないが、町にも入ったことがある
だが、その時は決まって、隣にはシオンが居た


「こっちだ」


シオンがいつも先導してくれていた道を思い出しながら、ヒマラヤ山脈を下降していく
2刻ほど経ったくらいには、山の麓近くまで着いており、遠くには町の姿を確認出来ていた


その風景にハクは胸を撫で下ろす


1人でこんな遠くまで来たのは初めてだった


しばらく山から見下ろせる地上の景色を見つめていたハクだったが、ある方角に足を向けた
すると、一本だけ他の木の異なる植物が根を張っている姿が視界に入りこむ
それはハクが探していた目印であるサラノキ―――沙羅双樹だった

3大聖樹の一つである樹
それを確認すると、ハクはユキを連れて低シワリク山脈の奥へと向かった


通称、魔の三角地帯へと向かうために


“魔”と呼ばれているが、それは人間にとっては歩きにくい地形であり、迷いやすい場所が由来だった
実際、それは本当のことなんだとハクはその身に実感した
まだ自在に扱えないとは言え、小宇宙を体得しているハクの足でも、その道は険しかった
けれど一方で、獣であるユキはいつもと変わらない足取りで歩いている


本当なのかも


その姿に“魔の三角地帯”と呼ばれる場所が動物にとっては平穏の場所という話を浮かべる
わざわざハクがこんな所に向かっているのは、そのためだった


「これ、登らないといけないのかな…」


だが、ハクの意志を打ち砕くような難題が目の前に立ちふさがった


まるで崖


足場が段差となっているため、登ることが困難なわけではないが、小さなハクからするとその段差は高い
けれど、そんなことお構いなしに飛び上がるユキの姿を見て、ハクも登るために手を伸ばした


念動力が使えれば、楽なのに


慎重に登っていっていたハクだったが、息が上がってきた頃にそう感じた

だが、無いもの強請りをしても仕方ないとばかりに次の足場へと移ろうとした


あと少し


頑張ろう、と腕に力を入れて足を地面から離した時だった

まるで人間の侵入を許さないと言っているのか、ハクの掴んでいた岩肌が崩れる




嘘…



スローモーションで遠ざかるユキの姿に必死に手を伸ばすが届かない

この高さからの衝撃だと、ハクの身体は耐えれないだろう

そう思いながら、小宇宙を燃やすも、いつものように上手くいかなかった



死ぬんだ



自嘲的な笑みが浮かび、悲嘆がこみ上げた




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