LOST CANVASの章
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スローモーションのように、相手の動きがゆっくりと流れていた
闇の中でさえ輝くだろう、黄金の髪を舞わせながら、その子供は空中から静かにハクの近くに降り立った
その白銀の神秘的とも言えよう光景を大木の後ろから眺めていたハクは、数m先の子供の顔を観察した
色白の肌に整った顔立ち
余りに綺麗なため、ハクは女の子と思ったが、次に聞こえた声と体つきで男の子だと察した
「いつまで木の後ろに隠れているつもりだ。邪念は感じないようだが、出てこないならば容赦はせぬぞ」
凛々しい声に乗って届く攻撃的な小宇宙にハクはうろたえるも草陰から抜け出した
悪い人ではなさそうだがハクは言葉を掛けることなく、その人物の前に立っていた
「…子供がこんな所に迷い込んでくるとは」
自分だって子供ではないか
けれど、見た目はハクと変わらないにせよ、彼が纏う空気は夙成していたためだろうか、ハクが言葉にすることはなかった
「君は、なんで此処に?それにさっきの」
「私は修行だ……どうやら君も小宇宙を扱えるようだな。小さいが…何処か―――」
瞳を閉ざした彼の顔がじっとハクを見続けてくる中、ハクも同様に少年を見上げていた
シオンよりも研ぎ澄まされ、淀みがないような小宇宙
常人と一線を置いたように感じさせ、シオンのような温かさに比べると少し寂しいようにハクは想った
「お前の知り合いか?」
「サンヤ様。いえ、先ほど出会った者です」
「山村の子供…ではないようだが……早く帰らねば、天候が荒れるぞ」
何処からか現れた老人は、ハクの服装を見て村の子供でないと判断すると空を見上げた
それに釣られてハクの視線も天空を仰ぐ
里から出かける時には見られなかった灰色の雲が近くまで来ている様子にハクは慌てる
「帰らないとっ―――」
急いで帰れば荒れる前に帰れるだろう
ハクは思い立つと二人に一つお辞儀をしてから踵を返し、来た道を走りだした
その姿に少年の腕が伸びかけたが、すぐにその動きは止まり、下ろされた
何故、私は今―――
無意識に動いた自分の行動に彼は内心疑問を抱く
彼の師である老人は、それを傍らで見守っていたがふと口を開く
「先ほどの子供、もしかしたら神の使いかもしれぬな」
神々の棲む山と言われるヒマラヤ山脈
そのヒマラヤ山脈には、“神の使い”という伝承がある
それは超人的な力を持った者が度々近隣の村を救っていることが由来していた
恐らく、その超人的な力とは小宇宙のことであろう
欲に塗れた人間ならば、その話に興味を持つだろうが、同じように超人的力を持つ彼には興味のないことだった
けれど
あの小宇宙が酷く、体に染みついていた