LOST CANVASの章
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「見て、シオン!」
落ち着かなさげに椅子の上で足を揺らしながら、祖母に髪を梳いてもらっていた姿が椅子から飛び降りて、その髪を見せる
「どう?」
興奮したように目を輝かせたハクの髪は、紅い紐と一緒に揺れている
想像していた通り、黒い髪に選んだ紐は似合っていた
「まぁ…いいんじゃないか」
「良かった!」
シオンの素っ気ない感想に長い付き合い故に理解しているハクは笑顔を浮かべる
その様子にハクの育ての親は、小さく笑っていた
日が沈む頃、二人は丘に座っていた
月1度しか会えなかったが、特別な話をするわけでもなく修行に行く前と同じように他愛無い会話が続く
「そういえば、少しは小宇宙の制御は上手くいってるのか?」
「もちろんだよ!いつまでも、成長しないわけじゃないんだよ」
「本当か?」
「そ、そりゃぁ、シオンに比べたらまだまだだけど……」
ハクは証拠を見せるために、小宇宙を集中させる
しばらくその様子を見守っていると、シオンの目に映ったのは、落ち葉がハクの手の上で踊り渦巻く姿だった
「……ハク、すごいな…」
「え?こんなことなら、シオンだって出来るじゃんか」
ハクが行ったことは別にシオンに褒められるようなことではなかった
けれど、それはハクにとって精いっぱいの力であり、あの頃に比べたらかなりの成長だった
「出来るとか、出来ないとかじゃない。諦めずに続けて…」
ハクの拳は包帯に覆われていた
無茶をする彼女は、相手をしてくれるシオンが居なくなってから人相手に拳を振るうのではなく、岩や大木に振るっていた
そこまで無理をするハクの姿を静かに見守ることの出来なかったシオンは、その事実を察した時に、すぐに止めるように忠告した
「シオンだって頑張ってるじゃない。それに、これは自分で好きにやってることだから苦じゃないよ」
けれど、今のように少女は笑って返した
それがいつもシオンの心に響く
来る日も来る日もシオンの修行は続いた
里の修行とは比べ物にならなく、子供のシオンは“自分には才能がないのでは”と幾度も挫けそうになった
だが、ハクの姿を見た時、シオンは思う
周りに馬鹿にされることがあってもハクは諦めることをしなかった
あんなに拳を痛めても笑顔でいて
それなのに自分は、すぐに諦めようとしていた
逃げだそうとしていた
せっかくハクが後押ししてくれたのに
なんて、情けないんだろうか
「シオン?」
「…―――そうだよな。自分が選んだ道だもんな」
「ちっとも辛くないわけじゃないけどね」
苦笑いを響かせた後、ハクは続ける
「でも、少しでも成長出来るようにするよ。シオンが頑張ってるんだもん」
ああ、そうだ
ハクが頑張っているんだ
「―――俺、早く一人前になれるようにするよ」
友にとって誇れるくらい強くなる
そして、もうこの手が傷つかないでいいように
「お互い、頑張ろ」
重ねられた掌に応えるようにハクがシオンに顔を向ける
夕日に染まる笑顔が、眩しい