原初の章
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今まで見てきた人間からは、想像しなかった言葉に一度萎んでいっていた興味が膨れ上がる
「お前には意味がないのか?」
「ないよ…貴方は、あるの?」
逆に自分には意味があるのかを問いかけてきた言葉に少なからず驚きを抱いた彼は、それに応えることはなかった
その様子を見て、子供は話が終わったのだと思い、再び滝へと視線を移していた
冥王ハーデスに仕え、神として生き、人間を眺めながら過ごす日々
けれど、帰る意味とはどういうことであろうか?
単に其処に居場所があるということか…
意識してなのか、それとも他意はないのか
深い意味を含んだ問いを投げてきた―――しかも人間に、笑みを刻む
「 面白い 」
静かに背後に降り立ち、その姿を見下ろす
大瀑布の飛沫を浴びたのか所々紅く染まった粗末な衣服と細い身体
無造作に括られた薄汚れた髪
決して神の目に止まる姿ではなく、飾るような存在でもない
けれど、その中身は少なからず興味が持てた
「私と一緒に来い。人間よ」
小さく反応を示した後、不釣り合いな瞳が振り返った
「まぁ、良い。何も言わないのなら、そのまま連れていくまでよ」
またしても子供が応えることはなかったが、男は気にすることなく、その腕を掴む
思っていたよりも細い腕を辿ってみると、肉がなく皮膚が張りついたような手
そのことに別段興味を示すわけでもなく、気にせずにその体を抱える
「人間と呼ぶのもいいが、名は何だ?」
言葉数少なく、ただ視線だけを強く向ける子供は一度瞬きすると、口を開いた
「 ハク 」
「ならばハク、よく覚えておくのだ。今日から私がお前の主となる―――」
「――― 眠りの神 ヒュプノスよ 」
凛然な音が風に舞う