LOST CANVASの章

□2-1
2ページ/2ページ




春の陽気のように、里は歓喜に包まれていた

暖かな光に包まれた山道から戻ったハクは、里の異様な空気をすぐに感じた

皆の顔が希望に満ち溢れているように、輝いている


「ちょうどいい所に帰ってきたようだな」

「ユズリハ、帰ってたんだ。一体何があったの?」


訝しんでいたハクの前に現れたのは、弟と共に長の下に修行に行っているはずの少女の姿だった

事情をまだ知らされていないハクにユズリハは周りの様子を見渡しながら、その理由を告げる



「アテナ様が見つかったのだ」



その一言で十分であり、ハクの瞳が次第に見開かれる


「アテナ、様が……やっぱり違う地に生まれてたんだね」


数年前から冥闘士の動きが見られるようになり、ハクレイの指導の下、ジャミールの戦士は己を一層鍛練するようになっていた

けれど、冥闘士が現れる中、それに立ち向かうために先頭に立つべき存在が未だ聖域には現れなかった


「ああ。イタリアに居たところをシジフォス様が見つけたらしい」


射手座のシジフォス

実力、人柄共に聖闘士の鏡と言うべき人であると噂ぐらいなら耳にしたことがある


「…皆、嬉しそうだね」


当たり前のことなのに、ハクは素直に喜べなかった

アテナ降臨の意味することは、聖戦の始まり

冥闘士が現れたことで、既にその兆しはあるということなのに、アテナが見つからなければいいとハクは心の底で想っていた


「ジャミールのために戦うために、私も早く一人前にならなくてわ」


まだ12歳の少女が意気込む姿にハクは自身の複雑な心境を隠すように微笑む


自分が考えるものは、戦い抜く戦士達を侮辱するものだろう


それでもハクは、友らや一族が傷つくことが嫌だった


「私も出来るだけ、強くならないとね」

「何れ私が成長したら、ハクのことも守るから安心しろ」

「それは、心強いなぁ」


戦士を目指すと言えど、可愛らしい発言に彼女の頭を撫でる

その行為にユズリハが頬を赤らめるのでハクは一層笑みを深くする


再び湧きだった疑問に



全て、杞憂であればいい



そう願った

前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ