原初の章
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「御用があれば、御呼び下さい」
身なりを整えさせ、食事の作法を教えた女達が告げるのを見送った後、ハクは地面に腰を下ろす
“まだ、死なないなんて”
汚れのない部屋の中でそうしていると、いつも聞いていた男達の声が蘇る
自身の生活を振り返ると、死んでもおかしくなかった
彼らも心の底でそうなることを望んでいたのだろうが、ハクをその手に掛けることはなかった
その理由もハクは知っていた
蔑む瞳と暴力の影に隠れる、自分を恐れる色を
だが、それも最早どうでもいいことだ
その彼らはハクの傍に居なく、代わりに違う男に変わったのだ
脳内で名も知らない男達の姿をあの男に置きかえ、ハクは手当てを施された自身の体を見つめる
今までの処遇に比べると今日起こったことは、ハクにとっては不思議なことだった
だが、不思議とは感じても、その行為に有難みはもちろん何かを抱くことはなかった
彼らにとって死んでほしいことが望みなら、男にとって生かすことが望みなのだろう
それは興味を持ったから故のものであり、興味が消え失せれば、次はあの男に殺されるだけ
別にどうでもいい
生きても、死んでも、意味なんてないのだから