LOST CANVASの章
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「…ハクは…シオンと幼いころからの付き合いらしいな」
掌が離れていく中、向けられた声は先ほどの声と違っていた
どうしたのかとハクは頭を傾げつつも会話を続ける
周りが兄弟のようだと表白する程に二人の仲は良かったのは確かだが、それがどうしたのだろう
「もしも、シオンと二度と会えないようにされたら、どう思う?」
その問いを投げかけてきたシジフォスの瞳は迷いに揺らいでいるのをハクは捉え、察しがついた
「…アテナ様、ですか?」
失礼と思いつつもその名を紡げば、彼の瞳は一層揺らめいた
「俺は、アテナ様を聖域にお連れすることを名誉あることだと思っていたが……」
唯一の肉親である兄と離されたことで涙を流していた少女の姿が、はっきりと浮かぶ
アテナの化身とは言え、神としての使命も記憶も想い出していない少女は、1人の人間の子供だった
「…私、シオンがハクレイ様の所に弟子入りする時、寂しかったんです」
幼い少女を連れ去った掌に視線を落としていた彼の瞳が自身を見つめる少女を捉えた
「でも、シオンの夢だから応援することに決めました。それに、それがシオンの歩む道だってわかってたから」
憂いを帯びた青が小さく笑う
「今はまだ会うことは出来るけど、もしも会えなくなったら今以上に辛いでしょうね」
幼馴染が旅立った時を昨日のことのように思い出し、肩に流れる紐を撫でる
「けど、それが私達にとって必要なことなら、受け入れます。一緒にしたらあれですけど、アテナ様もそうじゃないですか?」
一瞬、凛々しい姿を見せた少女の言葉にシジフォスははっとする
「それにシジフォスさんが気にすることじゃないですよ。そりゃぁ、家族といることは幸せなことですけど、そのままアテナ様が家族の元に居たら、アテナ様はもちろん、その家族や町も全員冥闘士によって殺されます」
自分より一回り近く若い少女の諭す言葉にシジフォスは今まで隠していた心の痛みが少しずつ解れていくようだった
「だから、シジフォスさんは気負う必要ないと私は思いますよ。それにアテナ様が家族と離れて寂しいようなら、シジフォスさんが家族のように一緒に居てあげれる存在になったらいいんですよ」
「…家族?…聖闘士の俺が、アテナ様の?」
予想にしなかった言葉に思わず言葉が零れる
「家族と言うか、アテナ様との絆をって言えばいいんですかね?絆って時に家族以上のモノだと私は思うんです」
思えば、それは聖闘士同士にも言えるかもしれない
仲間・同士・戦友
生半可な言葉では言い表せない絆が聖闘士の間にはあり、それは家族と表現してもいいかもしれない
「なれるだろうか?」
「なれますよ」
あの笑顔を守りたいと願った
少女の運命と願いと共に
「ありがとうハク」
「どういたしまして」
父や兄のように、守りぬくと心に誓う