LOST CANVASの章

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“こっちに来たらどうだ?ハク”


自分の意識じゃないように、視線が勝手に動く


自分の名を呼んだ人だろうか?


でも、その人をハクは知らなかった


輝く金髪と、金晴眼


次第に傍に寄ると、離れた場所で見るよりも一際綺麗な顔をしていることがわかった


“また、その本か?”


“だって、好きだから”



確かに自分の声がそう言った


そして、男の手に渡ったのは


“人々は希望を失い―――”


あの本と似ている


“少女は懸命に樹に僅かな水を注いだ”


そして、表紙と同じように並んだ文字

男がそれを魔法のように紡いでいくと、子守唄のように心に入り込んでくる


「…ねぁ、貴方は誰なの?」


違和感があるようでない

そんな彼の名を知りたいと思った時、今まで勝手に動いていた体が、元に戻っていた


いやに現実味のある夢だった


床に臥している自身の状況に気付き、ハクは体を起こそうとしたが、それは夢とは違う声に止められる


「もう少し休んでいた方がいい」

「シジフォス…おじいちゃんは?」

「呼んでこようか?」


それに一生懸命首を振ると、勇気を振り絞って口を開く


「…怒ってた?」

「そうだね、呆れてはいたな」

「そっか」


優しく笑みを浮かべるシジフォスに全てが白昼夢に感じれた




あの感覚も全て…



そうあれば、違う道を選択したのだろうか



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