LOST CANVASの章
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祖父の部屋から拝借していた書に目を通していると、文字が日焼けで少し霞んで見えにくいことに気づく
自身の持ち物まで手が回らないのか、祖父が持つ書物は痛んでいる箇所が目に付いた
ハクは手に持っていた書を机の上に置くと、自分の部屋から何かを用意して書の近くに設置していった
その様子に気づいたアトラは、その行動の意味が理解しており、ただ目を輝かせていた
そして準備を終えたハクは、椅子に腰を下ろすと意識を集中させ、小宇宙を書に注ぐように手を添える
すると、破れた紙に沿うように白い光が奔り、書を包んでいく
次第に光が抜けていった所から、まるで作製されたばかりの書が現れてきた
「お姉ちゃん、やっぱりすごいや」
その光景を何度か見たことのあったアトラは歓喜の声をあげる
一方でそれを実行していたハクは、新しく生まれ変わったような書物の姿とアトラの言葉に満足げな表情をする
いつもの好奇心で試したのがきっかけだった
祖父の仕事を目にしている内に、その材料、過程、精密な動作、必要な知識、それら全てを記憶していた
そして、成長した自分でも出来ないだろうかと、何度も繰り返し読んでいた書物に対して試しに行ってみると、驚いたことに上手くいった
それから何度も行っていくうちに、ある程度の物なら完全に修復できるまでになっていた
もちろん、そのことには自分自身が一番信じられなかった
小宇宙の操り方を克服したとは言え、昔はあれほど小宇宙に悩まされていた自分が見よう見まねで出来るなんて思いもしなかった
「ハク、アトラ。何をそんなに……その本は」
アトラと二人で治った書物を手に会話をしていると、玄関先から声を掛けられはっとする
顔を向けると、目を見開いて書物を見つめる祖父が居た
「おじいちゃん…あの、これは」
「……ハクがやったのかい?」
書と机の上に広がる見知った材料を確認すると、祖父はハクに目を向けた
「うん…いつか話そうとは思ってたんだけど、驚かそうと思ってて」
黙っていたことを怒られるかと思いつつ、ハクは気まずげに言葉を出す
地下書庫に続き、書の修復にまで手を出した自分に呆れたのだろうか、祖父はハクの手のうちに収まる書物を見つめたまま口を開かなかった
「見せてみなさい」
そう言われると、ハクは一度書物に目をやってから目の前の祖父へと手渡した
祖父はその書物を受け取ると、黙って外見は勿論中身を調べていく
それが終わるまでハクは心配げに見上げてくるアトラと瞳だけで合図を送っていた
しばらくすると、祖父は書を閉じて自身の部屋へと向かう
「お姉ちゃん…」
「あはは…アトラは心配しなくていいんだよ。それに、怒られるのは慣れてるし」
怒られるのを覚悟しようと腹を決めると、すぐに祖父が二人の元へと戻ってきた
その手には何故か、何冊もの本が積み重ねられている
そして、その書物達を先程まで使っていた机の上に置くと、祖父は言った
「これを全部、修復してみるんじゃ」
予想だにしなかった言葉にハクは確かめるように弟分に目をやると、アトラも不思議そうにするだけだった