LOST CANVASの章

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レグルスと別れた後、待ち構えていたとばかりに岩肌の間に聳える白い石畳の階段を登り始めた二人は、すぐに第一の宮である白羊宮に辿り着いた


「此処には、今主は存在しない。他にも幾つかの宮が同じ状態だ」


宮の中には女官の姿が見られたが、シジフォスのように黄金聖闘士の輝く小宇宙は感じられなかった

けれど、それも遠くない内になくなるのだろう

アテナが帰還した今、黄金聖闘士も揃う時だということなのだから



それに…



白羊宮を通り過ぎる際に、黄金を纏った人とすれ違い、ハクの瞳がそれを追うように振り返る


其処には、あの頃見た幻を思い出させる姿があった


あれからずいぶんと時が経ち、次第に大人びていく友は、やはりその姿と似ていた


あの時よりも、くっきりと黄金を纏う彼の表情がよく見える



「…なんで、そんな顔をしてるの?」


けれど、成長した友の顔は哀しい色で染まっている

小さく漏れた声に応えてもらえることはなく、あの光景は消えていった


「次は、金牛宮だが…まさか、疲れたか?」

「違うよ。ちょっと、気になることがあっただけ」


気にしないようにニッと笑顔を張り付けると、ハクは次の宮へと急いだ


「どうやら、聖闘士候補生の訓練に行っているようだな」


金牛宮の入り口付近で、瞬時に宮の主の小宇宙を察したシジフォス


「確か、名前はアルデバラン、様?」

「ああ。アルデバランは子供が好きだからな。時間がある時は少しでも聖闘士候補生の訓練に付き合ってやってるんだ。きっとハクのことも気にいってくれるぞ」


シジフォスには悪気はないのだろうが、その言葉がどうも自分を子供だと言われているようにハクは聞こえてしまったが顔には出さなかった


何処かの蟹とは違い、シジフォスは繊細なのだ


ジャミールで過ごしたことで彼の性分を幾らか理解していたハクは、出来るだけ彼を傷つけないように細心の注意を払っているのだった

そして、執務で留守をしている双児宮を越えた先にあるソレにハクは身構えた


「…これが、蟹の住まい…」


シジフォスに余計なことを話した怨敵の住まい巨蟹宮

まるでトラップがあるように恐る恐る脚を踏み入れたハクだったが、ふと異変に気づく

今までの宮同様に、この宮にあの憎い小宇宙の存在が微塵も感じられない


「何かしっくりこないけど…初日から蟹に会わないで済んでよかった」

「マニゴルドも本当はいい奴なんだ。ハクのことを気に入っているからの行動だろ」


マニゴルドを庇うシジフォスだったが、正直あれが気に入っているからの行動とすれば、ハクには理解出来ないものだった


ただマニゴルドはああいう性格なのだから、気にしたら負けなのかもしれない


「あと3分の2だね」


宮の主が帰ってくる前に此処からおさらばしたいとばかりに、ハクはシジフォスの先を行った



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