LOST CANVASの章

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乙女座が示してくれた通り南西に進み森が近くなると、太陽の沈む方角にアテナ像がきていた

難しい道でなかったため、今のところ路頭に迷っていないことに一安心するハク

けれど、目的の場所は見えていないため、今一度心を引き締めて荷物を背負いなおし、森の中へと向かった


「…このままでいいんだよね」


木々を縫うようにまっすぐと進んでいるはずだったが、一向に森から抜け出せないことにハクは訝しむ

親切に教えてくれた彼が間違っているとも思う訳もなく、もしかしたら森を進むうちに違う方角に向かって歩いているのではと不安になった


「誰かに聞こうにも……気配ないしなぁ」


周囲に誰かいないかと感性を研ぎ澄ますが、森に入るまでは感じていた小宇宙のぶつかり合いは森の中にはなかった

ならばと、見知った友の気配を捜していくが中々掴めない


「其処に居るのは誰…!?」


その時、小さな物音が鳴る

小動物かと一瞬過るが、隠すような気配にハクは警戒心を抱く

捉えることの難しい小宇宙は、まるで存在を消しているようで、ハクは懸命にその主を捜した

次第に範囲を狭めていくと、一本の木に目がいく


…何で、仮面?


木の葉に隠れるように居たのは、1人の青年だった

その青年は、口元を隠すような鉄の仮面を当然のようにしており、その理由を知らないハクは眉を潜めた


「…慰霊地ってこの先であっていますか?」

「………」


返事は返ってこなかった

けれど次の瞬間、青年は木の上から飛び降りるとハクの横を通り過ぎていく

それを目で追うと、彼は一度立ち止まりハクを振り返った


付いて来いということだろうか?


「待って!!」


だが、ハクが意思を決める前に彼は森の中を進んでいく

それに慌てたハクは、怪しむのも忘れ彼の後を追うのだった

何とか追いつき彼の横に並ぶが、彼はもちろんハクも口を開かなかった


仮面により表情がよく見えないが、歳の頃はマニゴルドと同じかそれより上だろうか?


青年の顔を物珍しげに観察していると彼もこちらに視線を向けたため、ふいに目があってしまう


「あっ―――…貴方の名前は?私は、ハクって言うの」

「………」

「…もしかして、口が聞けない?」


慌てて名前を尋ねるも返答がないため、浮かんだ疑問を口にした

すると、ようやく青年から声が響く


「…何故、俺の名を聞く?」

「え?」


ハクは応えることが出来なかった

だが、その問い掛けを不思議なことだと思ったからではなかった

彼の瞳と言葉に込められたモノが、昔に重なったためである


「着いたぞ」



気づくと森を抜け荒野が広がっており、その景色を確認している間に青年の姿は消えていた




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