LOST CANVASの章
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「…だから、話す際にも目を閉じているんですか?」
瞑想を行う身だからとも思っていたが、未だに瞼を閉じ続けている姿は、欲に塗れた姿を捉えないためなのかとハクは聞いた
「生来、目が見えないから閉じているまでよ」
告げられた事にハクは目を一際大きく見開いた
視覚を封じられているため、それを窺えないが彼は、ハクの心情を察する
「だが、不便なことはない。このお陰で様々なことを感じることが出来る」
「…でも、初めて見るモノの姿を見えないんですよね。私だったら、嫌だな」
上辺だけかも知れないけれど、大切な人達の姿を目視出来ないのは寂しく思う
それに初めて見た時の美しい光景の感動だって味わえないように感じると、ハクは思わず言葉を零した
「――――すみません。こんなこと言って」
座したままの黄金聖闘士は何も言わずに、ただハクに顔を向けていた
ハクはまずいことをしたと反省するも時間が戻るわけがなく、彼から視線を逸らす
だが、その瞬間にようやく彼の唇が動いた
「…君には驚かされることばかりだな」
何処か懐かしむような、哀愁を帯びた声が届き、ハクは逸らそうとした視線を元に戻す
「そう言えば、名を聞いていなかったな」
「え?」
「君の名は、何と言うのだね?」
視線を戻し、自身の名を問われ、しばし心中を戸惑わせた
まさか、相手から聞かれるとは考えていなかったため、すぐに自分の名を口にすることが出来なかったが、一度自分を落ち着かせてからハクは口を開いた
「ハク…私の名前は、ハクですっ―――」
告げられた名を声にせず、吟味するように彼は唇を小さく動かす
「あの、乙女座さんの名前も教えてくれますか?」
何かを思案していたのか、自分の名を突如問われ、座した人は少し驚いたように眉を動かした
「私の名か?」
まさか自分の名を知らないとは思わなかったのだろう
「シジフォスらが言ってたのを耳にしたけど、貴方の口から直接聞きたくて」
何故、こんなにも拘るのかハク本人さえ不思議だった
気恥しいことを言った後、彼は中々応えないため、ハクは頬を赤らめながら、その美しい顔を見つめた
「そうか……そうだな。この場合、自分も名を告げるのが礼儀であるな」
ようやく聞ける
ハクは、告げられるであろう彼の名を逃さないとばかりに、その唇の動きを瞬きせずに捉えていた
「私は、乙女座のアスミタよ」
求めていた名を彼の唇から聞いただけで、心の蟠りが溶けていく
「アスミタ……素敵な響きですね」
胸に沁み込む貴名により、ハクの表情は綻んだ