LOST CANVASの章
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薔薇を抱いたままハクが向かった先は、執務室がある人馬宮ではなかった
「薔薇かね?」
「うん!アルバフィカ様がくれたんだよ」
「嬉しいようだな」
ハクが笑顔で話すと、彼―――アスミタも口元を緩ます
宮に訪れることを許されたハクは、このように自分が経験したことをアスミタに話しに来ていた
もちろんありふれた様な日常のことであり、特に変わったような日常ではなかったけれど、それでもアスミタは呆れるわけでも文句を零すわけでもなく、ハクの話しに耳を傾けていた
「…アスミタ、いつも聞いてくれているけれど、つまらなくない?」
面白い話でもないのにアスミタは聞いてくれる
それは嬉しいことだが、アスミタに不満はないのだろうかとハクは不思議に思うことがあった
「私がつまらなそうに見えるのかね?」
「そうじゃないけど…」
「些細な事で一喜一憂する君の話が私は好きなのだよ。だから、そのように気落ちするのはやめたまえ」
穏やかな声を聞くといつもハクの心は落ち着いていた
ハクが捉えるアスミタは優しい人であった
もちろん、他の人が捉えるアスミタはハクが抱く印象とは違うことも知っている
だからこそ、違和感を持つことはあった
どうして、こんなに自分に優しいのか
けれど、それを尋ねることはなかった
ただ、この距離感に甘んじたいがために―――