LOST CANVASの章

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「…紡ぎ手?」


男に告げられた言葉に、偶然見つけた石碑に綴られた文章とあの忌まわしい光景が脳裏に過り、ハクは後ずさりたくなった

男はその意味をハクに伝えようとしたが、隣に佇む少年を迎えに来た黄金聖闘士に言葉を止める


「シオン!お主、急に飛び出しおって……ハク、それに」

「話は教皇の間でなさいましょう。教皇はもちろん黄金聖闘士にもお伝えすべき事ですので」


シオンと同様に黄金の聖衣に包まれて現れた童虎だったが、其処に居た総主教であるテオスの姿に首を傾げる

そしてテオス以外、事態を把握出来ていないままハク達は教皇と他の黄金聖闘士が集う元へと向かうこととなった






不安を抱く中、辿り着いた荘厳な扉は、聖域に来た時に通った扉と同じはずなのに違うように感じてしまう

重苦しい雰囲気に包まれているように見える扉は、ハクの不安など関係なく開かれていく


「…シオンよ、戻ったか」

「誠に申し訳ございません。教皇様の前にも関わらず…」

「気にするでない」

教皇の前へと進み、取り乱したことに詫びを入れるシオンの姿をハクは何も言わずに見つめていた

その理由を気にはなったが、教皇の間に流れる空気に委縮するばかりで、見知った人々の顔が他人に思えてならなかった


「…して総主教よ、一体どうしたのだ?それに隣に居るのは、ハクであろう」


教皇とのやり取りを終え、童虎と共に他の黄金聖闘士と同じく並ぶシオンの姿を見守っていると、総主教に促される

竦みそうな足で前に進む中、聖域において関わりを持ってくれている黄金聖闘士の視線が突き刺さってきたが、ハクは彼らに顔を向けられなかった


「はい。先日話したように儀式のことを覚えていらっしゃるでしょうか?」

「うむ。それに向け、お主は儀式において重要な役割を担う者を選抜していたはず」

「その役割を担う者が見つかったのです。ジャミールの少女、ハクこそが紡ぎ手として選ばれたのです」


自分の名が挙がり、空気が揺れ、ハク自身も肩を揺らす

儀式がどのようなことは詳しくは知らないが、話からして重要なものだとは理解できた


「馬鹿な…本来、紡ぎ手は女官の中より選抜された者が行ってきたと言われているであろう」

「ですが、この者が選ばれたのは事実。証拠に―――」


身動きの取れないでいるハクの腕をテオスの手が掴む

その行為にハクが自身の右腕に目をやるのと同時に、指先から次第に熱が帯びていく

その熱は生きているように皮膚を奔り、黄金の文字としてハクの身体に浮かび上がってきていた


「紡ぎ手を選ぶのは石碑に宿る古の意思。それは即ち、天の意思」


教皇であるセージは、この場に慣れない少女に目をやった

儀式の紡ぎ手は古代の石碑が宣託を下すものであり、女官からという決まりはない

だが、何故この少女なのかとセージは疑問の種を抱いた

不出来な弟子から聞いてはいるが、少女は拾い子としてジャミールで過ごしているという

ならば、少女は紡ぎ手として選ばれるために聖域と縁の深いジャミールに拾われ、天の導きで聖域に来たとでも言うのだろうか



「新たな黄金聖闘士の決まった今、近いうちに儀式を執り行う準備を」



ただ、少女の意思など関係なく、歯車が進むのは明らかだった



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