LOST CANVASの章

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ジャミールに比べると聖域の気候は穏やかなものだったが、夜の風は少し肌寒いとハクは漠然と抱く


新たな黄金聖闘士の誕生、並びに儀式の紡ぎ手が選ばれたことが重なり、聖域はその噂で明るくよどめき、祝福の声が上がっていた

紡ぎ手という役目は名誉あることであり、それに選ばれたハクは、祝言を掛けてくれる周りに笑顔を向けるしかなかった


紡ぎ手としての重みにか、石碑で見た幻にか、それとも両方にか


恐怖が募るばかりでしかたない


「牡羊座と天秤座と共に宴が開かれているのではないのかね?」

「アスミタ…宴に顔を出しに来たの?」


仰いだ青年の言葉の通り、人馬宮にて宴を開かれており、ほとんどの黄金聖闘士が集っているがハクは1人抜けだしていた


「質問に質問で返すのかね?」

「あ…ごめん。私はちょっと外の空気が吸いたくて…」

「本当にそうなのかね?私は君が何かに脅えているように映り、それを確かめるために来たのだよ」


全てを知られてしまうような小宇宙にハクは瞼を伏せて言葉を探そうとするが見つからない

理由はわかっているはずなのに、彼を欺くことなんて難題なのに、原因を口に出来ないでいる


「言いたくないのなら、言わなくていい。ただ私は、君が苦しんでいるのなら、それに手を差し伸ばしたいのだ」


言葉通りにアスミタの指先がハクの頬に伸び、まるで視えない涙を拭うかのように白い皮膚を撫でる


「それは私の身勝手な欲望であり、君を困らせてしまうだろう。それでも私は、ハクが笑顔であることを願ってしまう」

「…アスミタ……」


アスミタの声と温もりにハクの心は締め付けられる

シオンと似ているようで異なる、アスミタに懐く感情にハクは口を噤み、自分に触れる指に自身の掌を重ねてみた


肌寒い空間に居るせいか、頬に感じる温もりは酷く温かく、安心する


「…そろそろ宮に戻りたまえ。指先が冷えている」

「あと少ししたら戻るよ」


反対に熱を奪うハクの体温にアスミタは身体を按じるが、ハクは大丈夫だと言い、重ねていた手を離れさせた

すると、その後を追うようにアスミタの指もハクの頬から零れ落ちていく

その時の感覚にハクは少し寂しく思うが、次に起こったことに寂しさは驚きと体を包む熱に変わった


「あの…アスミタ…っ?!」

「これならば、少しは寒さも和らぐであろう…嫌かね?」


一瞬で起こった出来事は突然のものであり、ハクは下ろしていた腕をアスミタに掴まれると、そのまま彼の胸へと引き寄せられていた


「嫌じゃないけど、」

「それならば、気にすることはなかろう」


シオンではない異性の胸の中だからか、それともアスミタだからか、ハクの鼓動は加速していく


「宴に戻るまで、私も共に居よう」


微笑む姿に何も言えず、ただそっと寄り添った



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