LOST CANVASの章
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辺りは今日行われる儀式に向けて、忙しく人々が行きかっている
未だ神としての意思が目覚めていないアテナのために執り行われる儀式は、アテナ自身が十二宮から降り儀式の場に赴かなければいかない
幾ら聖域の領域内とは言え、アテナ神殿に比べると安全とは言えない場所であるため、聖域に滞在する戦士はそれぞれ持ち場を与えられていた
アテナの傍で護衛することを任される黄金聖闘士の一人―――シオンは、童虎と共に聖域周辺を事前に見回っていた
“後はわしに任せて、ハクに会ってこい”
だが、童虎に背中を押されたシオンは、3日間会っていない少女が居るであろう森の入口に佇んでいた
その間、紡ぎ手となったハクの姿が頭に浮かぶ
表面上は笑顔を取り繕っていたが、一人でいる間、その顔は名誉ある紡ぎ手として選ばれたことが災難のように憂いた表情をしていたのをシオンは知っていた
今までそのような特別とは無縁だったために、紡ぎ手としての大役が重みに感じているから、そのような色に染まっているのか、はたまた別のことなのか…
そこまでの理由をシオンは知らず、理由を尋ねる勇気さえ持てずにいた
昔はこんなことはなく、互いの異変に気づいたら相手のために行動していたはずだった
今では、相手の領域に踏み込むことが怖く感じる
ハクが不安を抱いているのは確かなのに、踏み込んでしまうと確かめたくない事実まで確かめなくてはいけないようで怖い
そう思う中でシオンは、そんな自分が滑稽に見えて仕方なかった
「…こんな私では、ハクを守る人間に値しないだろうな…」
胸元にしまい込んである彼女から送られた水晶に向けて言葉を零す
「やはり、お前も来ておったか」
手に納まる水晶に自身の姿が歪んで映っていると、聞き覚えのある声が掛りシオンは面を上げる
其処に居たのは、間違いなくシオンの師ハクレイの姿と自身と同じ黄金聖闘士の位であるアスミタの姿であった
何故、乙女座のアスミタが師と共に参上したのか理由は分からず、ハクのことを想うと胸に痛みを覚える
そして、それを合図のように一つの気配が近づいているのをシオンは感じ取った
数人の女官を伴い森の小道から現れた小宇宙にシオンは振り向いて、その姿を捉える
地面を伝い、視線を少しずつ上へと上げていく時間は、時が止まっているかのようだった
絹の衣装で包まれた色白の肢体
そよ風に吹かれ靡く黒髪
変わらない澄んだ青い瞳
知っているハクの姿なのに、目の前の人は知らない女性に一瞬思え、シオンは聖衣の見せた人と重ねてしまった
「ハクレイ様!それにアスミタとシオンも」
「別嬪じゃの。ハク」
「そ、そんなこと―――」
「まるで嫁入り前のようじゃぞ。この晴れ姿をお前の祖父や祖母らが見たら、嬉し涙を流すじゃろうな」
ハクレイと話すハクにあの影を追い払い、シオンは今一度彼女の姿を確かめようとする
化粧を施され、髪を下ろし、女性らしい格好
普段見られない姿から少女の面影は薄れており、胸から次第に全身が熱くなるのを感じた