LOST CANVASの章

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静まり返った部屋で安らかな寝息だけが響き、騒動から眠りについている寝顔をハクレイは見守っていた

その寝顔に一安心するも、アスミタから聞いた話―――冥闘士が去り際に見せた脅えた言動に怪しむ

恐らくその背後にあの双子神が居るのだろうが、聖域まで潜り込ませた彼らが易々と引き下がらせたのが不思議でならなかった

ただ儀式をとめられなかったためだとは思えず、ハクレイは息をつくと再びハクの寝顔を眺める

そして、其処に浮かび上がる一つの思案に儀式で疲れ果てた少女の体に小宇宙を注ぎ続けていた青年の姿を眠りに落ちたままの少女に重ねた

恐らく、幾人かが思っただろう



似ている、と



それは他人の空似だと多くの者が自己解決するだろうが、少女ハク、そして青年アスミタの事情を少なからず理解しているハクレイはそう解決するわけにはいかなかった


もし、その考えが正しければ―――


「…ん………ハクレイ…様?」


重たい瞼を持ち上げ、まだ視界のはっきりしていない瞳に自身の姿を映したハクにハクレイは今までの考えを消し笑みを向ける


「気づいたようじゃな」

「…私、どれくらい寝ていたんですか?」

「ざっと半日かの」


長が告げた言葉通り、部屋の窓から覗く空の色は常夜に染まっている


「体の方はどうだ?」

「寝過ぎで気だるいですけど、何ともありません」


儀式を終えた直後のことを考えると、不思議なくらいに体に問題はなくハクは瞳を伏せ何かを考えていた


「それも小宇宙、気力、体力共に使い果たしたお主を少しでも回復させるために、アスミタが小宇宙を送ってくれたからであろう」

「アスミタが…」

「他の黄金聖闘士も心配しておった。もちろん、シオンもな」

「そうですか。なら、夜が明けたら顔を出しにいかないといけないですね」


腕に結ばれたままの紐に触れながら、小さく微笑んでいたハクだったが、儀式で見た景色を思い出し、口を開く


「そういえば、儀式の最中に何があったんですか?…私、石碑に触れてからのことをよく覚えていなくて…」

「…冥闘士の軍勢が攻めてきたのだ。あらかじめ予測していたため、被害は少なく済んだが」


ハクはハクレイの濁した言葉の先を察する

怪我人はもちろん、死者も出たのだろう

どれ程の人が息絶えたのかはわからないが、冥闘士と対峙したことが原因なのは確かな事実


――― 冥闘士


その単語に夢の御仁の名が繋がり、ハクは胸を痛めた


「……ハクレイ様…私は…」

「ハク?」


言葉を一度途切れさせたハクは、続ける言葉を見つけるように掌を見つめる

その時の表情をハクレイは確かめることが出来なかったが、面を上げたハクにはっとする



「私は一体、何者なんでしょうか?」



平静な表情とは違い、その声は微かに震えていた




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