LOST CANVASの章

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「その辺にしておけ、タナトス」


銀眼に自分が映り、寄せられた唇が吐息が掛る距離で留まる

相手の瞳に囚われ、相手の言葉に惑わされていたハクは、部屋に響いた声に聞き覚えがあった


「ハクが脅えている」

「記憶を取り戻してないが故だろう。ならば、早々に記憶を戻させた方がこいつのためだ」

「私には、お前のためのように見えるが」


その言葉に、今までハクから視線を外さずにいた瞳が部屋に現れた主が居る方向に向けられる

暫くの沈黙が辺りを包み込むと、ふいに身体の束縛が解かれ、タナトスが怪訝な色を見せながら離れていった

その行動を見送る前にハクは、ゆっくりと顔の向きを変える


「…ぁ…っ……」


其処には今までと違うほど明澄な姿があり、彼は静かにハクの傍に腰を下ろす


「ようやくこうして逢うことが出来た」


憐憫にも似た頬笑みが満目に広がり、彼の指先が頬に伸び、触れる


「恐ろしい目に遭ったと聞いた。私がもっと早くに―――生まれたと同時に見つけてあげていれば、そのようなことはなかっただろうに」


微かな相手の生きた暖かさが身体に、心に、沁みる

相手が口にする、あの出来事に胸が痛んだが故だからだろうか?

ハクの視界は、捩くれる


「―――すまなかった、ハク」


水面に波紋を描いたように、対面する相手がどんな表情をしているのかわからない


ただ、頬に、目元に

優しく滑る感触が、穏やかで


彼の温もりに混じり奔った冷たさにハクは、自身が涙を零したことを知る


「だがこれからは、ずっと我らと一緒だ」


どうしようもなく、自分が愚かだという事実と共に




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