LOST CANVASの章
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拳が混じり合い、余波が周囲に広がり空気を震わす
お互いを弾き返すように距離を取るために地を蹴った時、砂塵で霞む視界に小さく何かが光る
それにシオンは動きを止め、光芒が飛んできた童虎も同様に動作を止めた
「…これは…」
「私のだ」
砂煙が治まる中、地面に落ちたモノを童虎が手に取り、その形を確かめていればシオンが近づいてくる
童虎がそれから何かを想い出すよりも前に、シオンはそれを童虎の掌の中から取った
「確かおぬしがハクに貰ったものじゃなかったかの?」
「ああ」
「紐が切れたようじゃの」
所々に傷を残し、小さく光を反射する水晶
シオンが貰うよりも前―――ハクが大切にしていた時から使用していた紐はプツリと途切れて水玉に付いていた
長年使い続けたため切れても可笑しくなかっただろう
けれど、不思議なほどに切れる予兆を見せなかった紐を想うと、シオンは訝しむ
「シオン様―――!!」
水晶の向こうにハクを見るようにしていると、童虎ではない少女特有の声が届く
自身を慕うように“シオン様”と呼ぶ人物を想い浮かべながら視線をあげれば、掟の仮面で表情を隠した姿が現れる
「ユズリハか?どうして、此処に」
「…それが……」
「…ジャミールで何かがあったのか?」
言葉を続けるのを戸惑う妹弟子の様子に胸がざわめき始める
幾ばくか間を置いた後、ユズリハが仮面越しにシオンに向かって告げた
「ジャミールの近くで冥界の動きが見られました」
「何っ!?」
「それと同時に…ハクの姿が里から消え失せて…―――」
言葉が次第に小さくなっていく中、ユズリハが口にした言葉がシオンの頭に巡り、他のものを見えなくさせていく
「どういうことだ…?」
荒げてしまいそうな声を必死に堪え、理由を問う
ハクの存在を掴むように、水晶を握る手に力を入れた
嫌な音が鳴る
流転が、加速を始めた