LOST CANVASの章
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見えた世界は、灰色のベールを被っていた
「何で……こんな」
青年に懐かれて飛び出た先には、毎日見ていた景色と異なるものだった
テラスで眺めていた時とは比べ物にならないほどに淀み、色は失せ、至る所で冷たく黒い金属が光り、動いている
「二人が愛しい君のために隠していたんだよ」
温もりが伝わらない男の腕の中で、ハクは先ほどテラスより連れ出される瞬間に感じた違和感を振り返る
この人は、双子神が結界を張っていると言っていた
きっと先程感じたモノは、結界を抜けだした感覚
そして、結界を張っていたのは…この景色を私に見せないため
「せっかくだ、下に降りてみようか?」
「でも、戻らないと彼らが心配するから」
「平気、平気。ちゃんと出かけることを手紙に残してきたんだし。それに」
綺麗な顔が歪み、あの楽しむかのような笑みを向けられる
「少し心配させるくらいが楽しいだろ」
ハクは言葉を詰まらしたまま、歪んだ思案を巡らす青年の横顔を眺めていた
温かみを宿さない冷たき美貌が、狂気を隠していることは、この短時間で理解できていた
そして、そう理解できるのは、自分が彼を知っているという証拠だということにも結びついていた
青年が纏う小宇宙に魂から少しずつ何かが浮かんでくるのを感じていると、自分の髪を舞わす風が緩やかになるのを覚える
「さぁ、ハクちゃん。好きな所を見てきなよ。彼らが捜しに来る前にさ」
足を大地に下ろし、背中に青年の言葉を受けながら周囲の様子を確かめていたが、空気が軽くなったことに意識が反応を示す
「待って―――…」
背後を仰ぐと、枯れ葉を巻き起こす小宇宙の余波を残し、青年の姿は消えていた
「…とりあえず、戻らないと。ヒュプノスらが、心配を…」
知らない地に取り残されたことに恐怖が襲うも、その後を追うように自身を心配する影が浮かぶ
そう、私が居なくなると、いつも皆が…
タナトスによって引き出された記憶の断片が心中で言葉を零させる
それは、独りだという心細さを追い払うように、ハクの心に小さく灯を宿らせたが、その温かさに思わずシオンの影を見てしまう
…シオンも、そうだった
「城は確か、あっちだったよね」
友を打ち消すようにハクは、自身が来た方向を見渡すと、歩みを始めた