LOST CANVASの章
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「ペルセポネ様のことを、ハクは未だに想い出さないか」
記憶の少女―――ペルセポネの名を聞いただけではハクの記憶を揺さぶることが出来なかったのか、ハクはオネイロスに礼を述べるのみだった
独りになるようにオネイロスの傍から離れるハクの背を見守っていると、降り立った気配に気づき、オネイロスは膝を着く
「ペルセポネ様との想い出は、ハク様にとって辛い記憶なため、致し方ないことかと」
「確かにハクにとってペルセポネ様は姉のような方であり、“あの”忌々しい出来事は我ら同様に苦い記憶だ」
地上に巣食う害虫でも睨むようにタナトスの視線が鋭くなるのを、面を伏せたオネイロスは小宇宙の重みで想像する
「…だが、それだけと思うか?」
「どういう事ですか?」
「ハクは、今までに幾度となくその記憶を克服してきた」
タナトスが言うように、ハクが涙を零すことはあったが、それと同じ数だけ克服して来たのをオネイロスは知っている
そして今回のように、こうも記憶を取り戻すことに時間が掛っていなかったことも
「恐らく、地上での生活が長かったのも一つの原因かと思われます」
「ふっ…その通りだ。ハクは、地上と関わりすぎた」
不敵な笑いを含んだ声にオネイロスの肌に嫌な汗が浮かぶ
「…ですが、それも時間の問題でしょう。遠くない内に、ハク様は自ずと、」
「本当にそう思うか?オネイロス」
「っ……」
「お前もわかっているだろ?否、わかっているからこそ、そう言っているのか」
タナトスの意味深の言葉が脳に届き、ハクが時折遠くを眺める横顔から連想されるモノを思う
その視線の先は自然と故郷の地を見ているのだろう
その心は未だに故郷の者らを捨てきれないのだろう
「だが……醜く、浅ましい…塵芥も同然の生き物に情を持つことなど、俺は許さん…」
そして、それを忘れられないかぎり、いつか訪れるのだろう
断ち切られる時が――――
心に深い渦を潜めた、ハクの元へ歩み向かう神によって