LOST CANVASの章

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生前の罪を償うために罰せられる魂の叫び

其処は地獄と称される世界

暗いばかりの色で出来た冥界で、白い影が歩んでいた

不釣り合い、けれど馴染んだ人影は、手に抱えた一輪の花を持ったまま崖の上で輝く大樹を見つめる

冥界に存在して、唯一生命に満ちた存在―――木欒子

命を感じさせる淡い光に笑みを落とし、ハクは大樹の元へ走った

エリシオンより運んできた一輪の花を植えるために

木欒子の元にペルセポネが居るわけではなかったが、逢えない今となっては、それしかハクには出来なかった


「…私だけじゃ、きっとまた無理なんだろうけど」


此処は冥界

罪を罰する場所

安らぎなんて、似合わない

それでも彼女が望んでいたのを思うと…


冥界には通常花は咲かない

冥界の掟により、花さえも命を奪われ、枯れていく

けれど、木欒子だけは例外となった

ペルセポネと植えた、この木欒子だけは唯一、根付いた


「…君の嬉しそうな顔が浮かぶんだ」


木欒子の芽が出た時の、彼女の眩い姿が今でも目に浮かぶ

その姿を胸に、ハクは崖を器用に登り、地に脚をつける

血の川の近くで聳える木欒子への道はすぐだった

けれど、歩みは止まってしまう


《冥闘士とは違うようだな…だが、亡者でもない》


脳に直接響いた声

突如感じた小宇宙にハクは身構えた

小宇宙を辿らずとも異変はすぐに目に見えて現れる

音を立てて血の大瀑布の流れが乱れ、黄金の光が―――小宇宙が溢れた


「…だれ、…?」


この地には、無暗に立ち入ることを冥闘士には禁じていた

なのに、亡者ではない存在が、其処にはいる

血の気が失せていくにつれ、光が次第に治まっていく

そして鮮明になりだす、相手の姿


「君は何者だね?」


冥界にあってはならない太陽の光

それを纏う存在にハクの瞳が見開かれ、花が落ちる


足元で、花が枯れた―――



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