王女と騎士様
□第1章 動き始めた運命
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2 出会い
時はさかのぼって10年前――。
「ねぇ。お兄様はいつも何してるのぉ?」
エリナは三つ上の兄――シオンの手をしっかりと握りめて尋ねた。
「立派な騎士になるために修行してるんだよ」
穏やかに微笑まれる。
エリナはシオンのことが大好きだった。
ミルファナ国は女王大国。
男子は王室に入れない。
そのため、血の繋がった兄妹でもほとんど顔を合わせる機会がなかった。
こうやって一緒に居られる時間は貴重だった――。
「エリナも修行してみたい」
シオンの顔を見上げ、小動物のようにつぶらな瞳を向ける。
(お兄様ともっと一緒にいたい)
「いいよ。じゃあ、稽古場に連れて行ってあげるよ」
温厚で優しいシオンにエリナはいつも甘えていた。
騎士候補生たちが修行をしている稽古場――。
いくつもの剣が交じり、高く澄んだ連続音が響く。
汗を掻きながら、ぶつかり合う少年たちの姿。
ほのかに漂う酸っぱい臭い。
振動で床が静かに揺れている。
五感全てで感じる――ここは別世界。
空間そのものが、エリナにとって新鮮だった。