王女と騎士様
□第1章 動き始めた運命
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騎士団の正装姿をしたアールは、緊張した面持ちで騎士団のハーツ総長と会話をしている。
(こっち。見てくれないかなぁ)
エリナは必死に熱い視線を送っていた。
横から強い視線を感じ、エリナははっとその方向を見る。
母――ミリカ女王が顔を強張らせ、睨んでいた。
(集中しないと……後で怒られちゃう)
表情を引き締め、各国の王族たちの長い祝辞を真剣に聞いているふりをする。
やっぱり気になってチラチラとアールを見てしまう。
その度に、目ざといミリカ女王に気付かれ、咳払いをされていた。
「ミルファナ国では伝統として、王女が16歳の誕生日を迎えた日に専属の騎士を付けることになっています」
ミリカ女王は立ち上がり、凛然たる眼差しを会場全体へ向けた――。
そこから、強い光が放たれているような錯覚をしてしまう。
圧倒的な存在感と威厳さに見ているものは自ずと屈服する。
女王の神々しさは別格だった――。
エリナはそんな母の姿に改めて自分には女王の素質がないことを痛感していた。
心配しなくとも、次期女王は二つ上の姉――マイミが継ぐことになっている。
「本日より、わが国の騎士団に所属するアールがエリナの専属騎士に就任となります」
ミリカ女王の言葉にエリナは緊張を走らせる。
(アールが……私の騎士になる)
アールはゆっくりとエリナへ近づき、手が届きそうな所まで来ると立ち止まり、両膝を付き跪いた(ひざまずいた)。
エリナは用意されていた剣を手に取り、黒い獅子の紋章が描かれた剣の平でアールの肩を三回叩く。
そのまま、アールは忠誠の儀の詞(ことば)を呟いた。
エリナはアールの左の薬指へシンプルなゴールドの指輪をゆっくりと通す。
これはミルファナ国へ伝わる専属騎士の証。
主(あるじ)の名前が刻印され、特殊な力によって主にしか外すことができないように作られている。
この瞬間、アールはエリナの騎士となった――。