王女と騎士様
□第1章 動き始めた運命
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「そろそろ……アールに声を掛けようと思うのですが、心の準備はできていますか?」
「どうしよう!疲れて変な顔になってない?」
エリナは勢いよくリースの両腕を掴み、不安そうに瞳を揺らす。
リースは目を大きく開き、エリナの顔をじっと見た後、小さく笑った。
「なってないですよ。変わらずお美しいです」
リースは過剰に褒める癖がある。
きっとどんなにヒドイ顔をしていても“綺麗”と言う気がする。
それでも、第三者の目から言われると安心する。
自信を持ってアールに会える――。
「エリ様……大変申し上げにくいんですけど……」
リースは視線を床に移し、ぼそぼそと言う。
「アールのことなんですけど……あんまり期待しない方がいいと思いますよ」
「……どういうこと?」
「エリ様の中でアールってすごく美化されていると思うんです。でも……実際の彼は……」
リースは言葉を詰まらせた。
彼女はアールと面識がない。
だが、何か知っている様子。
「楽しい気持ちを台無しにしてしまって……すみません。忘れてください」
リースはふわふわの薄ピンク色の前髪をさっと掻き分け、誤魔化すように体をドアの方へ向ける。
彼女は無意味にエリナを不安がらせたりしない。
だから、知りたい気持ちより、知る怖さの方が勝った。
「ううん。……頭になんとなく入れておくね」
エリナは作った笑顔を浮かべた。
リースはそのままアールを呼びに部屋を離れた。