王女と騎士様

□第1章 動き始めた運命
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 シオンの指導のもと楽しく修行する時間は長くは続かなかった。
 エリナより先にシオンがすぐ飽きてしまったから。

 一人ポツンと残され、エリナは隅っこでひたすら教えてもらった通りに腕を動かす。


「こんなところで何してるの?」

 突然声を掛けられ、エリナは手を止め、顔を上げた。
 シオンと同じ年頃の少年が、物珍しそうな顔でこちらを見ている。

 
 今のエリナは男しかいない空間に咲く可憐な花――。
 エリナにも自分が場違いな存在だという実感はあった。

 それでも、目の前の彼も別の意味で浮いて見えた。
 男臭い暑苦しい空間の中で、端正な顔立ちの彼はひとり妙に爽やかな雰囲気を醸し出している。
 鮮やかな剣技よりもその顔に目がいく。
 引き込まれるような容姿――。



「修行してるの」

 エリナは明るい口調で答える。


「修行?騎士にでもなるの?」

「ううん。騎士にはならないよ」

「じゃあ、どうしてここにいるの?」

「お兄様と一緒にいたくて来たの」

 ふと見上げると視線が交わった。
 彼の真っ直ぐで汚れない瞳が印象的だった――。


「あーっ!シオンの妹だっ!」

 手をぽんっと叩き、閃いたように言われる。

 エリナはシオンと瓜二つ。
 一目見て、兄妹だとわかるくらい似ている。


「正解っ」

「てことは……王女様?」

「うん。エリナ、王女だよっ」

「へー……王女様かぁ」

 今度はまじまじと全身観察される。
 エリナはキョトンとして、立ち尽くす。
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