王女と騎士様

□第2章 二つの死と二人の王女
1ページ/21ページ

1 騎士団崩壊の危機


 マルタ国での国交を終え、三日ぶりにミルファナ国へ帰ってきた。
 飽きるほど見ている景色。
 だが、知らない土地を訪れたような馴染めない空気。
 言い表せないような違和感を覚える。
 胸がソワソワして気持ちが悪かった。


 城内へ入るとすぐに血相を変えた騎士団副総長に会議室へと誘導される。


「エリナ王女。お疲れのところを申し訳ございません」

「いえ、気になさらないで下さい。それよりも何かあったのですか?」

 エリナは深刻な顔つきでおそるおそる尋ねた。


「今日……ハーツ総長が遠征の際、亡くなられました――」


 あまりに想定外な事実を告げられ、言葉を失った――。 

 (嘘?お父様が……亡くなったの?)

 頭の中が真っ白になる。
 怖いくらい体から血の気が引いていく。
 衝撃が大きすぎて立っているのがやっとだった。

 険しい顔をしたアールが真っ先に反応した。


「……ハーツ総長が亡くなったって本当なんですか?遠征での敵国はさほど強くはなかったはずです。あの総長が死ぬなんて……何かの間違えじゃないんですか?」


 アールは一歩前に出て、詰め寄るように言った。
 少し興奮しているように見える。


「これは紛れもない事実だ。ハーツ総長だって完璧な人間ではない。誰かに負けることも、死ぬことだってある」

「そんなの言われなくても、わかってますよ。それでも、総長が死ぬなんて……よっぽどのことがない限り、あり得ません」

「……総長は死んだんだ。辛いが受け入れなさい」

 副総長はアールへ向けて、怖いくらい冷静に言った。
 アールの瞳の奥から誰に対するものかわからない怒りの感情が滲み出る。


「……じゃあ、死因はいったい何なんですか?」

「死因?そんなの聞いてどうするんだ?」

「聞かないと納得できません」

 その言葉に副総長は深く息を吐いて、呆れたような声を出す。


「……そんなに受け入れられないか?」

 アールは唇を噛みしめ、押し黙った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ