王女と騎士様
□第6章 魔始人の森
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1 魔力を宿した土地
コーラル国を馬車で北上し、丸三日――魔始人(ましと)が住まう森へと辿り着いた。
森と呼ぶには相応しくないそれを前に、リースが率直な感想を漏らす。
「こんな立派な“山”初めて見たわ」
リースは首を後ろへ反らし、瞳を輝かせ、てっぺんを見上げていた。
三つの山が重なり合い、ひとつの巨大な山が形成されている。
空高くまでそびえ立つ樹木は二面性を持つ。
剣のように真っ直ぐ伸びる勇ましさ。
包み込むような優しい緑色と丸みのある穏やかな形。
強さと優しさ――。
「予定、変更っ!純粋に山登り楽しんじゃいますかぁ?」
一際テンションの高いレインが、号令を掛けた。
肩から提げている鞄には、レインお手製弁当が四人分用意されている。
シークレットブーツを封印し、歩きやすそうな靴に履き替え、なぜか誰よりもヤル気を見せていた。
「楽しんじゃいますかぁ?じゃないだろ。遊びに来たんじゃないんだよ。魔始人に会いに来たんだよ」
アールは“魔始人”の部分を強調させ、冷静な声色で注意した。
“この堅物め”とレインから堂々と舌打ちされ、アールもわざとらしく溜め息をつき返す。
いきなり、険悪な雰囲気――。
エリナが慌てて、アールとレインの間に割って入る。
それぞれの手を取り、交互に二人の顔を見た。
「はいっ、楽しく行きますよぉ。笑顔、笑顔っ」
にこやかな表情で明るく言うと、両サイドから白けた視線を向けられる。