王女と騎士様
□第8章 力の覚醒
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1 魔始人の血を引く者
未だに目を覚まさぬミズキの顔を眺めながら、魔始人(ましと)の集落での出来事を思い起こす。
魔宝石(まほうせき)を手に入れるため、集落を襲撃したミルファナ軍――。
ミスラルは、これから大きな戦が始まると話していた。
多くの血が流れ、目の前にいるミズキのように、家族や故郷をなくす人たちが大勢現れる――。
「ねぇ。ミズキ……私はどうしたら、いいのかなぁ?」
エリナが弱々しい声を漏らすと、ミズキのまつ毛がぴくっと動いた。
三日ぶりにその意識が戻る――。
「んっ……ここは?」
ミズキは重たくなった瞼を開き、何かを探すように首を動かした。
「ミズキっ!……よかったぁ」
安堵のあまり、涙ぐんでしまう。
このまま目を覚まさなかったら――そんな不安感で、この三日間ほとんど眠れなかった。
戸惑いの色を灯した瞳に見つめられ、エリナは慌てて状況を説明する。
「ここは、集落から少し離れたところにあるペリレン村の宿屋だよ」
「宿屋……僕、ずっと眠ってたの?」
「熱が下がらなくて……体調はどう?」
覗き見たミズキの顔はほんのりと赤みを帯び、血色が良くなっていた。
そっと触れた額からは熱感が消失している。
「もしかして……エリナがずっと看病してくれたの?」
ミズキは頭の下に置かれている氷枕を見ながら言った。
同じ方向へ視線を向け、エリナは苦笑する。
「もうそれ、水枕だよね」
氷が解け、ブヨブヨになっている。