王女と騎士様
□第9章 戦火の足音
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1 追憶@ 火の魔宝石(まほうせき)
――四年前
ガラスケースに飾られた色とりどりの魔宝石――。
エリナは頬杖をつき、吸い込まれるようにじーっと見つめる。
いつまでも見ていられるほど、煌びやかに輝くそれは魅力的に映った。
ぽんっと頭に優しい大きな手が乗せられ、エリナは顔だけ後ろに向ける。
「楽しい?」
手の主は少し不思議そうな顔を浮かべ訊ねた。
エリナはしゃがんだまま、父ハーツへ満面の笑みで返す。
「楽しいっ」
「エリナの心を釘づけにしてるのは、どの魔宝石かなぁ?」
ハーツは声を弾ませ、エリナに目線の位置を合わせた。
背中越しに大好きなハーツの温もりが伝わる。
「あれ。あの紅いの」
揺らめく蝋燭の灯火のような真っ赤な魔宝石を指した。
特別、大きいわけでも、目を引くような色味でもない。
だけど、何故か眺めているだけで、ハーツに優しく抱きしめられているような温かさを感じた――。
「……そっか。エリナにはわかるんだね」
感慨深い声がエリナの耳をそっと刺激する。
「これ、特別なものなの?」
エリナが問うと、ハーツは懐かしむような笑みでゆっくり頷いた。
「この魔宝石は、私が家を出たときに、持ち去ったものなんだよ」
さらっと言われた言葉に、エリナは顎に手をあて、首を傾げた。
「ねぇ。持ち去ったってことは……勝手に持って来たってこと?」