王女と騎士様
□第2章 二つの死と二人の王女
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副総長はアールから視線を外し、テーブルの上で山積みになっている書類へ興味を移す。
「残念だが……私も死因は知らない。そんな些細なことにこだわっているヒマはないからな。総長の死はわが国へ多大な影響を与える。こっちはその対策で手一杯だ」
「些細なことですか?総長は長年に渡って騎士団をまとめ上げてきたんですよ。その死因を知ろうともしないなんて……」
「だからだよ。あの人の代わりはこの騎士団にはいない」
副総長の言葉が部屋中に木霊したような気がした――。
ミルファナ軍は騎士団員を筆頭にさまざまな部隊で編成されている。
他国に比べると、優秀な才を持つ軍人が揃っている。
それゆえ、各々自我が強く、身勝手な行動をする者も多い。
圧倒的な力とカリスマ性を兼ね備えたハーツだからこそ、まとめることができた。
強力な頭をなくしたミルファナ軍は結束力を失い、混乱することが目に見えていた――。
ハーツの葬儀は慌しく執り行われた。
その死はあまりにも突然過ぎて、ミルファナ国を深い悲しみの静寂へと包み込む――。
すすり泣く声が静かに響く。
享年38歳――多くの人がその死を惜しみ、悲しんだ。
エリナは両手を合わせ黙祷(もくとう)を捧げる。
目を閉じ、思い返す。
どんなに記憶を駆け巡らせても、明るく笑っている姿しか思い出せない。
あの笑顔が大好きだった。
涙は出なかった――。
泣いている顔を見たら、ハーツはきっと悲しむ。そう思ったら、自然と泣けなくなった。
エリナは記憶の中にいるハーツへ穏やかに微笑みかける。
笑い返してくれたような錯覚にとらわれ、体が温かくなった。
心の中にはちゃんと生きている――。