王女と騎士様
□第7章 始まりの地
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重たくなった口を、アールが思い出したように開く。
「一旦ここを出よう。リースとレインが外で待ってる」
集落の外にリースとレインを残したままだった。
アールに背中を押され、エリナが歩みを進めると、パキっと枝を踏む音が、耳に入った。
地面を擦る音が微かに聞こえる。
警戒するような足音――。
「ねぇ……誰かいるよ」
エリナは足を止め、アールの袖をきゅっと摘んだ。
緊張が走る――。
「ここを襲った犯人か……魔始人の生き残りか」
険しい顔をして、アールは剣の柄に手を掛けた。
確実に近づいていた足音が消失し、唾液を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
しばらく経っても、集落に潜む人物は姿を現そうとしなかった。
エリナの唐突な申出が沈黙を破る。
「アール……剣、貸して」
アールは無言で訝しげな視線を送る。
「大丈夫。心配するようなことは絶対にしないから、ねっ」
小首を傾け、甘えた声を出すと、アールは少し不満そうな顔で剣を差し出した。
エリナは受け取った剣を力いっぱい遠くへ投げた。
地面にユラユラ転がる剣をアールは瞬きもせず、茫然と眺めている。
突拍子もない行動を取られ、アールは我を失っていた。
そんなアールの様子を気にも留めず、エリナは大声を発する。
「私たちは、あなたたちを傷つけるために来たんじゃないんです。ただ……お尋ねしたいことがあって来たんです」
静まり返った空間にエリナの声が木霊する。