王女と騎士様

□第9章 戦火の足音
2ページ/25ページ

 ハーツは体をビクッと反応させ、12歳の少女へ苦しい言葉を残す。


「勝手に……うーん?内緒でって言う方がしっくりくるかなぁ?」

 視線を彷徨わせるハーツ。
 そんな父をエリナは何とも言えない気持ちで見やった。


「……黙って持ち出して、大丈夫なの?魔宝石って貴重なんでしょ?」

「エリナは意外と口煩いね。……ミリカに似てきたね」

 ハーツはいじけた子どものような拗ねた顔で、ぼそっと呟いた。

 エリナは母ミリカが苦手――冗談でも、似ているなんて言われたくない。
 頬を膨らまし軽く睨むと、ハーツはぶるぶると首を真横に振った。

 ハーツは少しだけ表情を引き締めて、言葉を紡ぐ。


「これは私がもらう予定だったから、問題ないんだよ」

「本当に?」 

 すぐ適当なことを言って誤魔化すハーツへ猜疑の目を向ける。


「ホントホントっ」

 軽い語調にエリナは複雑な思いに駆られる。

(どうして、真面目な態度見せられないんだろう)

 これで、騎士団の総長を務めているから、さらに信じられない。

 ハーツはエリナを無視し、ケースから真っ赤な魔宝石を取り出した。


「はいっ。エリナにあげる」

 唐突に目の前に突き出され、エリナはハーツの顔と魔宝石を交互に見た。
 困惑するエリナとは対称的にハーツはにんまりと笑っている。

 しばらく固まっていると、ハーツは小さなエリナの手を取り、掌へ魔宝石を乗せた。
 触れている部分から優しい温もりが伝わる。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ