王女と騎士様
□第9章 戦火の足音
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ハーツは体をビクッと反応させ、12歳の少女へ苦しい言葉を残す。
「勝手に……うーん?内緒でって言う方がしっくりくるかなぁ?」
視線を彷徨わせるハーツ。
そんな父をエリナは何とも言えない気持ちで見やった。
「……黙って持ち出して、大丈夫なの?魔宝石って貴重なんでしょ?」
「エリナは意外と口煩いね。……ミリカに似てきたね」
ハーツはいじけた子どものような拗ねた顔で、ぼそっと呟いた。
エリナは母ミリカが苦手――冗談でも、似ているなんて言われたくない。
頬を膨らまし軽く睨むと、ハーツはぶるぶると首を真横に振った。
ハーツは少しだけ表情を引き締めて、言葉を紡ぐ。
「これは私がもらう予定だったから、問題ないんだよ」
「本当に?」
すぐ適当なことを言って誤魔化すハーツへ猜疑の目を向ける。
「ホントホントっ」
軽い語調にエリナは複雑な思いに駆られる。
(どうして、真面目な態度見せられないんだろう)
これで、騎士団の総長を務めているから、さらに信じられない。
ハーツはエリナを無視し、ケースから真っ赤な魔宝石を取り出した。
「はいっ。エリナにあげる」
唐突に目の前に突き出され、エリナはハーツの顔と魔宝石を交互に見た。
困惑するエリナとは対称的にハーツはにんまりと笑っている。
しばらく固まっていると、ハーツは小さなエリナの手を取り、掌へ魔宝石を乗せた。
触れている部分から優しい温もりが伝わる。