創作世界2

□お前は思い詰めそうだけど
1ページ/1ページ






温め直したスープとスプーンをトレーに乗せて、
居住スペースのある3階へと続く階段を上る。

どこか浮かない顔をしたルーエは、ネオルカの部屋の前で足を止めた。
深呼吸をしてから扉にノックをし、声を掛ける。


「ネオルカ、起きていますか?」
「・・・あー・・? 起きてる、 なに」


声を掛けてから少しだけ合間があったものの返答はあった。
・・普段より低い声だった。 不機嫌というよりはだるそうな。


「スープ持ってきたんですけど・・・これくらいなら食べれますか?」
「・・・・あー、貰う。 いいよ、入って」


ルーエの問いからまたしばらく悩んだような合間。
立ち入りの許可が下り、扉を押して開ける。

部屋は電気が付いてなかったようで暗い。

ベッドがもぞりと動いた気配がすると、部屋に明かりが付いた。
布団を半分捲り中途半端に身体を起こしたネオルカの姿が視界に映る。

ある程度整頓された部屋にも関わらず、
机の上だけ散らかっているのは妙な違和感を覚える。

ネオルカが身体を起こしてベッドの上に座るのを見ながら、
ルーエも部屋に立ち入り扉を閉めた。

ベッドの脇にはシュクリスと呼ばれた剣が、
鞘に入った状態で立てかけられている。


「具合どうですか?」
「概ね、まぁ」


ネオルカにトレーを手渡すと、彼は掛け布団越しの脚の上にトレーを乗せた。

・・・立ちっぱなしも少々威圧があるだろうか。

室内にちらりと視線を向けたけれど、
この部屋には散らかった机に向き合うローラー付きの椅子しかない。

座るものを探していたことに気づいたのか、
ネオルカは「その椅子引っ張ってこいよ」と告げた。

短く礼を述べてローラーを転がしながら、
ベッドの近くに置き、椅子に腰を下ろす。

ネオルカは静かに手を合わせてからスプーンを手に取りスープを口に運ぶ。


「・・・今日って担当ルーエだっけ」
「代わってもらいました。 気を紛らわせたくて、」
「へぇ、」


本当に聞いているのかどうか分からないような返事をしつつ、
ネオルカは続けてスープを飲む。

食べる速度は普段より遅いような気はするものの、
とりあえず食べれる状態ではあるようでほっと胸を撫で下ろす。

不意に彼の碧眼がルーエを捉えた。
妙に視線が外れない。 幾度か瞬きを繰り返す。


「・・・ルーエの料理は美味いけど、考え事しながらはやめときな」
「・・普段と味に違いありますか?」
「いや、味よりお前の状態の話」


状態、って。
誰よりも状態が悪い貴方が人の状態を心配するなどと嘯くのか。

口を噤み、スープを食すネオルカを視界の端に。
・・彼が目を伏せた時は睫毛も長いし端正な顔立ちだから綺麗な顔だと思う。

それからは食べる音がする以外はわりと静かな時間だった。
飲みきったネオルカはトレーの上に皿とスプーンを置き静かに手を合わせる。


「ん、ありがと」
「・・どういたしまして」


ネオルカからトレーを受け取ったルーエは、
そのトレーを自分の脚の上に乗せた。

すぐ帰るつもりがないと察したネオルカは彼女に視線を向ける。

浮かない表情のルーエは一度、ベッドに立てかけられたシュクリスに
視線を向けてから視線を落とした。


「・・・どうして、言わなかったんですか?」
「・・・どこまで聞いた?」
「シュクリスの話までは伺いました」
「だよな」


流石に聞いてるよな、と当然納得したかのように頷いたネオルカだが、
彼の口からその続きを語られるような気配はない。

ルーエは少しだけ眉を寄せる。


「お願いだから、もっと喋ってください。
 言ってくれないと分からないです」
「・・・分からせたくねーから黙ってんじゃん」
「ネオルカ」
「怒るなよ」


咎めるように名を呼んでも彼は普段通りに交わしていく。

・・・自分に与えられた使命が、あまりにも重くて嫌だった。
要約して世界を救えだなんて荷が重すぎる。

ただ天使として生まれただけなのに、
ただ属性が光であったからというだけで。

何故私でなくてはいけなかったのか。
何度自分の枷を恨んだかしれない。

だからきっと、対である貴方もそうだと思っていた、のに。


「・・・どうして貴方なんでしょうね、」


ぽつりとルーエが零した独り言はネオルカの耳にも聞き届いた。
碧い瞳は彼女も視界に映さず、ゆっくりと瞼を落とす。

・・・人の環境を恨んだのは初めてだったかもしれない。
意識改革、だったのかもしれない。

眩いまでの金色の髪がさらりと揺れ、彼女は緑色の瞳を伏せた。


「貴方がその剣を抜かずに済むよう、力を尽くします」
「・・・そういう宣誓は俺じゃなくて『十字』に言えよ」
「無論です。 ・・けど、それでも・・・」


同情、にしては随分と心が痛む。
私の使命が軽くなったわけじゃない。

ルーエに課せられたものは変わらずある。

でも先程同じ六剣の使い手から聞いた同僚の話では。
まるで貴方は断頭台の前に立っているみたいだ。

貴方を蝕む剣の代わりにはなれないだろうか。

言い淀むルーエを一瞬視界に移したネオルカは、小さく息を吐き出した。


「・・これだから知られたくなかったんだよ、お前女だし」


苦い表情を浮かべながら呟いたネオルカの発言に、
ルーエはぴくりと反応を見せる。


「・・・性別関係あります?」
「別に女だからなめてるって話じゃねーよ」


不満そうな指摘にネオルカは彼女を見て否定の言葉を述べた。
否定されたルーエは一旦言葉を噤む。


「自分にも戦える腕があるのに、女に守られんのはどうかとは思うよ」
「・・・でも貴方の状態はそんなことを言ってる場合では、」
「男はプライドたけーんだよ」


・・ため息混じりの返事は半分投げやりに躱された気がした。

何度目かになる数拍の静寂。
室内はどこかひんやりしている。

不意にネオルカは布団の中に潜り寝転がった。
・・確かに具体悪いのに長話は良くなかったかもしれない。

来る時より軽くなったトレーを片腕で支え、借りていた椅子を机の前に戻す。


「お邪魔しました」
「ルーエ」


出て行こうとするルーエを呼び止める声。
振り返っても壁際を向いているネオルカの顔は確認できない。

ルーエが足を止めたまま数秒。


「・・心配されなくても、それなりに期待してるし頼ってるよ」
「・・・そうですか。 なら、応えられるように頑張ります」


彼女は少しだけ笑みを見せ、ネオルカの部屋から出て行った。





お前は思い詰めそうだけど



(戻りました)
(お、おかえり。 ネオ食べた?)
(食べてました。 まだ本調子じゃなさそうですけど・・)
(うーん、今日の分が引けるのは後1日くらい掛かりそうだな)

(・・・あ、ネオルカの他のご飯どうするか聞きそびれた・・・)
(あー、アイツが明日起きてこなかったら私が食うわ)
(朝ご飯にしては重くありません?)
(へーきへーき、食える食える)






LD組はしんどいが我が世界では珍しい関係性なので楽しい。


ルーエ・ディ・ティエル
  六剣事情を聞いてちょっと意識改革入った。
  もっと切り込まないと答えないけど切り込んでも答えなさそうなネオルカ

ネオルカ・ジーヴェ
  基本的に嘘は言わないけど本当のことも言わないので参るね。
  めちゃくちゃやるせないししんどいし可哀想。 どうにかしてあげたい。

ミラー・カーリック
  会話の空気切り替えスイッチ。 彼女が喋るだけで雰囲気が変わる。





 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ