捧&貰

□邂逅する『夜桜』と居酒屋
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主にアキが愚図りながらも飛空艇は目的地に到着して発着場に降りた。
空は天気予報通りの快晴、戦神の街アニティナは活気のある街だ。

朝と呼ぶには遅いが昼と呼ぶには早い午前10時半。

アニティナ到着早々、宿の部屋を取る。 尚案の定の2人部屋である。
正直個室よりも空いている確率が高くて取りやすい。

部屋に荷物を放り込んだ後、街の中や露店をしばらく巡り昼ご飯を取って、
旅団アニティナ支部に向かったのは昼過ぎのことだった。

扉に手をかけ、旅団支部の中に入る。


「こんにちはー」
「こんちは!」
「はい、いらっしゃいませ」

「旅団員のフユ・ローゼミリアと」
「アキ・カシュナータ到着でっす」


敬礼動作を取るアキと、会釈をするフユの姿を見、
受付カウンターに立っていた男性は頷いた。

2人はそれぞれ鞄やポケットから旅団員証を取ると、
カウンターに設置された機械に旅団員証を置く。

ピピピ、と軽快な機械音が響くと2人は旅団員証を元の場所へと戻した。

到着報告完了ー、と背伸びをして腕を上げるアキ。
フユはふと思い出したように、受付へと視線を向けた。


「受付さん、すみません。 クロウ居ますか?」
「クロウさん、ですか? えーと」
「あー」


手元のタブレットで滞在旅団員を調べようとしだした受付に、
アキが少し困ったように頬を掻いた。

支部の中を見渡すと端のスペースには、
受付と依頼客らしい人が2人、テーブルに向き合って座っている。

人が居ることを確認してから、アキは受付にちょいちょいと手招きをすると、
受付の彼は疑問符を浮かべながら、受付カウンターに身体を乗り寄せた。

アキは口元に手を寄せ耳打ちするように声量を抑えて口にする。


「十二使の方のクロウなんやけどさ」
「彼とは大学の同級で、今日会う約束してるんです」
「あぁ」


十二使の名を出した瞬間、受付は察したように頷いた。
乗り出した身を戻し、受付の男性は回答を続ける。


「そちらでしたら先程コロシアムへ出掛けられましたよ」


名の挙がった建築物に、フユとアキは顔を見合わせた。

毎年8月末に開催される世界周知の闘技大会では、
アニティナのコロシアムをいつも使用しているのだ。

イベントごとが無ければ一般開放されていて、
手合わせや魔術の練習場に使われていることも多い。

アニティナの近くには特戦科の強い高校がある分、尚更だ。


「1時間もすれば戻ってくると思いますけど・・」
「・・・どうせだし見に行こっか?」
「せやな。 直接会ってきます!」
「はい。 いってらっしゃいませ」


手を振り見送る受付に背を向け歩き出す2人。

・・・ふとアキが足を止め、
「あっ、ちょい待ち」の発言と同時に振り返った。


「もしかして今依頼溜まっとったりする!?」
「いえ、どちらかというと今日は少なくて。 緊急も少ないですよ」

「そっか、よしよし。 増えてもーたらクロウ仲介でもいいから呼んでな!」
「いつでも呼んでください」
「はは、ありがとうございます」


去り際会釈して支部を出るフユと、敬礼しながら支部の扉を閉めるアキ。
扉の上付近に取り付けられた小さな鐘が、カランカランと音を鳴らす。

アニティナ北西に位置する大きな建築物を指し、
2人はアニティナ大通りを歩き出した。


「・・まぁクロウだし鍛錬は欠かさない人だろうけど、
 コロシアムまで使用するのは稀だよね」
「やんな? あたしもちょいビックリしたんよ。
 あたしら知る限りやったら、なんか派手な氷魔術展開した時以来やない?」

「それいつ頃の話だっけ?」
「えぇー・・・2年前とか違った?」
「あー・・まぁ十二使と言えど旅団だし案外そんなもんか」
「旅団に属して同じ場所で2年前言うたら最近な気するよな」
「ほんとね」







街中を進み、コロシアムの受付へと問いに行けば、
今試合場は貸し切りになっており、観客席以外の使用が不可とされていた。

コロシアムの貸し切り自体は時折ある。

アニティナ近くにあるレーシュテア高等学院の特戦科生徒が、
授業の一環として貸し切り利用していることも少なくない。

後は特大魔術の練習場として、迷惑掛けないために貸し切られる場合もある。

クロウが稀にコロシアムを使用するのは知っているが、
貸し切るのまでは珍しいと思いながら、2人は受付の前で顔を見合わせた。

「どうされますか?」と問う受付に、2人はお互い目線を向けて頷いて。
それでもいいです、と伝えると快く案内された。

まずは入口へ。 その先にあるスロープ上になった、
長く緩い上り坂と階段を交互に上っていく。

観客席へと出る扉を押し開けると、外の風が入り込んで来た。
それと同時に、試合場の中央から絶え間なく金属の音が響く。

試合場のスペースへと目を向ければ様子を見にきた目的であるクロウと、
海のような長い髪を揺らして、彼と互角に戦う女性の姿。

どちらも剣を手に、試合場には氷の破片がそこかしこに散らばっている。


「なんやあの戦い・・・?」
「うわ、ガチじゃん・・」


世界部門でも見れるかどうかのような激しく高度な戦闘に一瞬息を飲む。
こうして会話している間にも金属音は止まず、互いを狙っている。

わざわざコロシアムを貸し切りにして戦うぐらいだから、
倒すべき対象とかではなく、手合わせの部類なのだろう。

いや、それにしては手合わせでこんな戦いは流石に初めて見る。

あまりの速度に目が追えない。
金属音はかろうじて打ち鳴らした回数を聞き取れるか。


「あんなに本気なクロウ初めて見たなぁ・・」
「世界部門以来やろか? そら勝てへんわな」
「ほんとね」


顔を見合わせて肩上げて苦笑いした2人は、
観客席の間にある通路の階段を下り、一番前の席に腰を下ろした。

観客席の利用はオーケーだったのだから観戦だ。

正直刃を持つ2人の動きを目で追うことはできないだろうが、
魔術の展開などは遠目ながらでも分かるだろう。

それに貸し切ってまで戦っているのだ、下手に邪魔をしてはいけない。

腰を下ろしたのも束の間、1分もすれば一際高い金属音の後に音は止み、
試合場に居た2人は、地を滑りながら動作を遅めた。

氷の破片を足元にダークブロンドの髪を揺らして彼はその場に立ち上がる。

舞う砂埃の中、鬱陶しそうに手をひらりと振った蒼い長髪の女性も、
しゃがんでいた体勢から、その場に立ち上がった。

そして試合場に居た2人は、
遠巻きながら観客席に座るフユとアキに視線をやった。


「・・・客みたいよ?」
「・・フユとアキか」
「あら、知り合い?」

「大学の同級」
「ん、成程」


納得したように小さく口元に笑みを浮かべる女性。

クロウは辺りの氷魔術の残骸を一目見渡すと、
彼女と開いていた距離を少し歩き詰めた。


「観戦者が居るが、まだ続けるか?」
「・・んー、今日はもういいかな、充分戦ったし。
 あの2人もクロウ目当てなんでしょ?」

「言うてただの飲み約束だがな」
「こんな昼間から?」
「さぁ。 夜かもしれん」


肩上げて笑った様子を見せる女性に返事をしながら、
クロウは手にしていた剣を腰に差していた鞘に納めた。

倣うように女性も長い剣身を鞘に納める。

そしてクロウは観客席に座る2人向けて腕を手前に振り、
「来てもいい」とジェスチャーを送った。

それを見て2人は席から立ち上がる。

立ち上がったフユはそのまま、観客席から試合場へと
何メートルもあるような高さを見下ろし、徐に呟いた。


「『ヴィソルム』『ヴィソルム』『ヴィソルム』、っと」


緑色の魔術陣が空中に3つ現れると、
観客席から薄緑色の結界が3つ、大きな階段のように段差が張られる。

フユはそれを見ると観客席から飛び降り、結界の上に下り立った。
後を追うようにアキも同じ結界を下りていく。


「便利やなー、結界魔術」
「ふふ、風ならではだよね」


魔術詠唱をしているとは言え、観客席から直接下りると
試合場中央に立ってこちらの様子を見つめている2人の元へと駆け寄った。





 
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