創作世界未来

□神はそれを「運命」と呼ぶ
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魔術学観点なら自然そのものを物理的に物体として成すに等しい
そのミサージガルだが、取得は決して容易ではない。

グラシアは存在を知ってから完成形と至るまでに7年の時間を掛けているし、
世の中の半数以上は一生掛かっても取得できないだろうと予想されている。

彼曰くミサージガルの取得には才能とセンスがあっても5年は掛かると言う。
それほど彼らが携える武器には目視以上の技術が込められている。

初戦、アリナは彼の操るミサージガルを見て「初めて見た」と口にした。

驚いたように目を見開き、嬉しそうに武器を構えた彼女の様子を顧みれば、
嘘や演技を感じなかったその言葉は本当だったのだろうと思う。

事実ミサージガルの使い手は極々少数だ。
グラシアほど完成されたミサージガルを操作する者となると希少だ。

対して。 その当時、2人の邂逅と初戦は1年ほど前である。
ミサージガルを初めて見たと言った彼女の発言も1年前の話だ。

アリナはミサージガルを十分すぎるほどに操っていた。

戦闘中とは言え、その疑問が彼の唇を割って出るのはそう難しくなかった。


「君のミサージガルはどうやって手に入れたんだい」


序盤とは違い右手に風属性である緑色の剣と、
左手に聖属性の白い剣が握られているグラシア。

彼のふとした質問にアリナは幾度か瞬きを繰り返して首を傾げた。


「戦闘前に言わなかったっけ?」
「今の問いは期間と経路、かな」
「あぁ」


彼女は納得したかのように数度頷くと、今日一番だろう笑みを見せた。


「ふふっ、内緒!」


そのまま力強く振るわれた手にしていなかった空中の剣で受け止める。
彼女は見越していたかのようにすぐ様動作を切り替えた。

すぐに斧を引き振り直す動作を横目に、
グラシアは右手に持っていた緑色の剣をアリナに向ける。

伸ばされた手から現れる緑色の魔術陣。

それは剣を伝うように急速に流れていき、
今まさに斧を振りかぶろうとするアリナへ向かって、
竜巻のようなうねりを持った風が彼女を襲った。

風魔術が発動された瞬間、グラシアは握っていた緑色の剣を離す。

アリナは振り回す寸前だった斧で自身の前に差し出し、
刃が防御となり、まもなく風は止んだ。

防御にした斧から顔を離してみれば、グラシアの右手にはいつのまにやら、
緑色の風属性である剣ではなく、黄色の剣が握られていた。

息つく暇も無く右手に持った雷を纏った剣を、突き刺すようにアリナへと。


「っ雷なら・・!」


アリナはパチンッと右手の指を鳴らすと、右手の平をグラシアへと向けた。
向かってくる剣。 右手の平の先に現れる黄色の魔術陣。


「私の方が特化してるわ!!」


剣は彼女の伸ばした手へと真っ直ぐ向かって・・・・
弾けるような雷鳴がその場に響いた。

アリナの手の平から出てきた黄色の魔術陣は彼女を守るような雷の盾となり。

突き刺しに向かったはずの雷の剣は、
その盾に吸収されるかのように剣身が溶けていった。

雷剣のグリップから手を離すグラシア。

魔力を塊として出していたミサージガルの剣先を失くした黄色の剣は、
魔力として空中へと戻っていった。

剣を1本失ったグラシアは、彼女の前で
ばちばちと弾く雷を見つめその場で瞬きを繰り返す。


「驚いた、雷魔術を防御に使う人は初めて見たよ」
「吸収までしたのは私も驚いた。 同属性だからかしら?」
「参ったな、武器が減った」
「冗談が上手ね」


クスクスと笑みを見せるアリナに、グラシアは小さく笑った。

そもそもミサージガルは魔力なのだ。
剣身が壊れたから使い物にならなくなったとかいう話ではない。

魔力さえあればいつだって出せるのだ。


「でも今ので武器を1本封じられたのは確かだよ」
「武器の本数ではまだまだハンデがあるわよ?」
「残念、僕は元々8本使いだからさ。 ハンデを負ったのはこっちだ」


グラシアがふ、と口元に笑みを浮かべたのも束の間、
小さく風を切る音にアリナは飛行が解けたように、ふっと高度を落とした。

床に向かって落ちるアリナ、その彼女の先程居た場所に剣が数本交差する。
アリナは床に付く前に体勢を戻し、曲線を描いて空中の舞台へと戻った。

彼女が飛べるのは斧の影響だが、
飛行モードが自由にオンオフ切り替えられるらしい。

戦闘相手が急に重力に従って落ちるのだ。
常時飛んでいることの多い有翼種族よりトリッキーでタチが悪いと感じる。

斧に跨るようにして空中を飛ぶアリナが声を投げかけた。


「初戦の時は本気じゃなかったの?」
「・・質問の意図は?」
「剣の持ち替えは見なかったように思って」


不思議そうに問いかけるアリナの声は本心のようだった。
初戦は風属性と聖属性の剣を両手に握っていた。

彼自身の得意属性は水と聖であったが戦闘途中でアリナが雷特化だと気付き、
属性不利となった水属性の剣は手には握らない、遊撃に回していた。


「回答しよう。 本気だった、手は抜かなかったよ」
「で、しょうね。 なら剣の持ち替えは?」
「初戦は戦力よりも安定性を取っただけさ」
「・・ふふ、 ってことはそこまでは引っ張り出せたのね・・!」


グラシアの返答を聞き嬉しそうに唇を吊り上げたアリナは、
空中で急速に彼に近づいたかと思えば雷を纏う斧を勢いよく振った。

左手に握っていた剣を両手で握り斧の刃を防ぐ。

武器の持ち替えが行われるということは、
戦闘スタイルが一貫していないということだ。

つまり握った剣の属性次第で行動パターンがいくつにも別れる。
自身が雷属性であることを数えても行動を制限させるには難がある。

その上で初戦は風と聖の固定パターンしか見ていない、
今戦では聖と風、聖と雷、聖のみの3パターンしか確認できていない。

グラシアにこれ以上選択肢を増やされないためには、
手っ取り早いのは彼にもう武器の持ち替えを行わせないこと。

即ち持ち替えの暇を与えさせないほど高速の接近戦。

斧を剣で受け止めたと思うや否や、すぐさま攻撃が続いた。
1本の白い剣を両手に握り、アリナからの猛攻を防ぐグラシア。


「(女性の力とは言え、まともに受けると重いな・・・)」


城内の空間に絶え間なく響く金属音・・・
どちらも魔力で構築された武器であるゆえに、金属音と呼ぶのは少々怪しいか。

魔力である刃が金属特有の高い音を鳴らし続ける。

猛攻の最中、背後からの剣を避けたアリナはすぐさま攻撃に戻った。
防戦に回る彼の表情は険しいものの焦る様子はない。

ふとグラシアの眉が寄った。
手数が足りなかったか、隙が生じたか。

淡く黄色い光を帯びた翼のような造形をした斧が、
彼の右腕、上着の袖を破り二の腕へと斬り込んだ。

今回の戦闘、一番最初の直接ダメージだ。


「ぐ・・っ」


食い込んだ傷跡に鈍い表情を見せるグラシア。
すぐさま彼が左腕を振るうとアリナに6本の剣が向かっていった。

2人の間を裂くように現れた剣により、自然と距離が稼がれる。

剣はグラシアを背後に守るようにアリナへと攻撃を開始し、
彼女はそれへと応戦し始めた。

応戦する彼女の様子を眺めながらはぁ、と小さく吐き出される息。
久しぶりの痛みだった。

顎を引き腕を見れば、破れた袖の隙間から刃が食い込んだ自らの腕、
そして血が流れ出し上着を赤く染めていた。 思わず眉間に皺を寄せる。

グラシアは左手を、傷の負った右腕に触れない程度に手を添えた。
手の平から白い魔術陣が現れる。 回復系の魔術だった。


「流石に長い時間、猛攻維持はさせてくれないわね」
「・・・・」


剣に応戦しながら赤い瞳を細め笑みを浮かべるアリナ。
全ての剣から一定の距離を取り、空中に立つように彼を見つめている。


「でも、一撃与えた」


初戦はグラシアの完勝だった。
彼女に勝利の可能性が万に一つも無いほどに。

それが今、アリナは彼の武器を1本封じて先制を。

まだ一撃、されど一撃、
「戦闘にも流れがある」と言うならば今の流れは確実に彼女だろう。

初戦とは打って変わったその強さに、
グラシアは水色の瞳を細めて怪訝そうな表情を浮かべていた。

・・・利き腕にダメージを受けたのは迂闊だった。





 
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