創作世界

□とんでも師匠と不器用な弟子
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「やってますねぇ」


授業と授業の合間にある休憩時間、2階の教室から窓縁に肘を置き、
運動場を見やる黒い髪が胸元まで伸びた少女。

運動場では特戦科の生徒達が、試合形式なのだろう
1対1で戦ってる生徒が何箇所かに散らばっているようだった。

学校の運動場かと思うほどの広大な地では何かと都合がいいのだろう。


「頑張ってますねぇ」


窓縁に肘を置いていた少女の後ろで、
ハーフアップにした黒髪の少女が運動場に目線を向ける。

後ろから声が飛んできたことに驚きつつも、窓縁に居た少女は
声の主を確認した後、再度運動場へと目線を投げた。

窓縁から運動場を見つめたままの彼女に、声を掛けた生徒が口を開く。


「それよりミキさ、今日火曜日だけど」
「うん?」
「放送担当、今日じゃないの?」
「・・・っあぁ! いっけない! レーナありがと!」


レーナと呼ばれた友人と思しき女生徒の言葉を聞いた瞬間、
ミキははっとした表情をし、窓縁から180度、体の向きを変えて
席と席の間をすり抜けながら廊下を走っていった。

その様子を見ていたレーナは1つ息を吐いて小さく笑う。


「相変わらずどっか抜けてるんだよなぁ」







「はっ、ほっ、とっ!」


馬鹿でかい運動場は試合形式で、生徒達が1対1で戦闘をしている。

その様子を一目見やることもなく、特戦科の制服を着た
身長165cm前後の男子学生は運動場の一角で剣の素振りを繰り返す。

後ろで短く括られた髪と括られなかった横髪が跳ねてるのを見たところ、
彼はクセっ毛なのだろうと推測できる。

素振りをしながら、短く息を吐き出す彼、
メルドの左肩に後ろから手が触れて支えられる。


「重心偏ってる」


突然の声と手に驚いたメルドは、思わず剣を持ったまま振り返った。
それと同時に手に持っていた刃も後ろに立っていた人物へと振られて。

声の主は意図的でない攻撃を予測してたかのように上半身を前方に傾け、
後ろから振られたメルドの持つ剣を避けた。

避けようと前屈みになった女性の蒼く長い髪が揺れる。


「あああああごめんなさっ・・!!」


慌ててぱっと剣を持ち上げるメルド。

剣のリーチから離れた彼女は肩越しに振り返り、
メルドを視界に入れたまま、足を止めずグラウンドへと歩き続ける。

すらりと伸びた鼻、綺麗な横顔だ。


「危ないわよ。 支度してきなさい」
「あっ、 は、はい!」


メルドは剣を鞘に収めて、校舎へ向かうべく運動場を駆けて行った。

蒼髪の女性はメルドに目を向けず、
運動場中央で行われる試合を見に近づいていく。


「あれ・・っ メーゼさん!?」


生徒の1人が蒼髪の女性に気がついて声をあげる。
それに連なるようにメーゼの方に視線が集まる。

メーゼは生徒達に小さく手を振りながら、
ある試合の審判をしていた教師のところまで歩いていった。

目の前で行われてる試合は傘を手にした女子生徒と木刀手にした男子生徒が、
高校生とは思えないハイレベルな戦いを繰り広げていた。

男子生徒の方は若干動作が覚束ないだろうか。
ただ勢い、気迫は十分で必死に食らいついている。

その最中、学校内に音楽が流れ
10秒ほどして音楽がフェードアウトした。

それと同時にマイクの入った音がスピーカーから流れる。


「”皆さんこんにちは! レーシュテア高等学院、放送委員です!
 2限終了お疲れ様でした。 特戦科の方々はもう1限ほど
 授業があるのでしょうか? どうかお怪我をなさらぬよう”」


放送から流れる生徒の声に、「ミキさんだー」という声が上がる。

メーゼも一瞬スピーカーへと顔を上げて、
現在行われてる試合へと再度目を向けた。

現状、木刀を持った男子生徒が押しているように見える。


「”暑い日が続きますので、普通科の生徒も
 特戦科の生徒も、水分補給は小まめに取るように!
 3限開始まで後5分、移動教室の方は移動遅れずに!
 放送委員、普通科1年 ミキ・クロシェットでした”」

「っおりゃ!」
「くっ、」


放送が終わるのとほぼ同時に男子生徒の勇ましい声が上がった。

木刀と傘、鈍い音が数回続き女子生徒が怯んだ瞬間を男子生徒は見逃さず、
女生徒が傘を振り下ろす直前、木刀が女子生徒の首横を横切る。

傘を構えたまま動きの止まる女子生徒。
木刀を女子生徒の首横に当てたまま、小さな息遣いを繰り返す男子生徒。

メーゼの側に居た先生が、笛を鳴らした。


「そこまで!」


間を割るような先生の声に両者は大きく息を吐き、
各々の武器を下ろし握手を交わした。


「ありがとうございました」
「あざっした。 流石に今回はヒヤヒヤしたっす」
「ふふ、世辞でも嬉しいよ」

「もしかしてツカリ先輩は頭脳戦得意派ですか?
 すっげー相手しにくくて・・・・」
「それなりに? 元々武器が傘だから殺傷力ないし
 その分、頭働かせて裏かかないと・・・」


握手を解いた生徒2人は試合スペース中央から歩き出して外に出た。

その様子を見、試合審判をしていた先生は
隣に立っていたメーゼへと顔を向けて、1つ会釈をした。

メーゼも首だけながらも、目を伏せて会釈をする。


「久しぶりですね、メーゼ。 お元気でしたか?」
「おかげさまで何より。 先程の2人は?」


スペース外であれこれ会話している、
今しがた試合をしていた生徒2名に、何人かが駆け寄ってくる。

どういう動きをしたのか、を教えているのだろうか、
スローモーションで木刀を構える男子生徒の様子が伺えた。


「先程木刀で戦っていたのが1年のアルト・ディーレ
 傘で応戦していたのが3年のツカリ・グローザです。
 どちらも実技では学年上位に入る優秀な生徒ですよ」

「ふぅん、 ・・・3年の方は純粋に良いわね、褒めれる。
 1年の方は・・『らしい』っちゃ『らしい』けど
 単調さを力で押し切ってる感があるわ、あれは少し心配ね」


負けた方を褒め、勝った方の注意点を挙げるというこの言動。

無論メーゼは負けた方にフォローを入れたとか、
勝った方に慢心はよくないという注意をした等という
心遣いなんかではなく、思った通りの素直な感想だったが。


「アルトは実技、学年トップを争える人材なんですが・・
 いかんせん、反比例のように単調さがどうもねぇ」
「気迫は良いと思うわ。 だからこそ、ね」


先生と似たような形で腕を組み、遠目ながらアルトと呼ばれた生徒を眺める。
先生は困り気に溜め息を吐いた。 ・・苦労していそうだな。

メーゼは組んだ腕を下ろして、先生へと顔を向けた。


「ところで今日はメルドの試合はあった?」
「あぁ、2限開始辺りで。 その後はあちらの方で素振りを・・・
 ・・・あれ? 居ませんね」


先程メルドが素振りをしていたはずのグラウンドの端に、
先生が目を向け、直後疑問符が浮かぶ。

居ると思っていた場所に彼の姿がなかったからだろう。


「メルドにはさっき会ったわ。 校舎の方に走って行った。
 それで、彼 数日ほど借りたいんだけど」
「ふふ、メーゼも大変ですね。
 分かりました。 届けはこちらから出しておきます」
「ありがとう」


メーゼは少しだけ笑い、先生に背を向けて校舎の方に歩き出した。

校舎への入口をくぐって下駄箱に辿り着いた時、
授業の開始を知らせるチャイムが響いた。

適当な場所で靴を脱いで、スリッパに履き替える。

校舎内の廊下に自分以外の足音は聞こえない。
先生方も生徒もとっくに教室の中だろう。

靴箱から少し右に歩いた場所にある、階段に足を掛けた瞬間、
上の階から慌てたように階段を駆け降りる音。

荷物を左肩に掛けて踊り場で姿を見せたメルドは、
メーゼの姿を確認するなり、階段を下りながら口を開いた。


「すみません、メーゼさん! 寮も寄っていっすか!?」
「それはいいけど・・相変わらず慌しい子ね。 落ちるわよ」


階段に掛けた足を下ろして、メーゼがそう言うなり
メルドは階段を降りきって早々、バランスを崩してよろけた。

よろけつつも駆け足で靴箱で靴を履きかえるメルド。

彼女はその後ろから来客用スリッパを戻し、脱ぎ捨てていたブーツを履いた。


「そういや今日の試合はどうだったの」
「え、あー・・・3回戦で先輩に見事にやられました」
「あら、じゃぁ2戦は勝ったのね」
「学年一緒だったんすけど まぁ、はい、一応」


照れくさそうに頬をかくメルドに、メーゼは少しだけ笑った。


「結構じゃない。 手応えはあった?」
「あった、と思います。 ちょっとでも成果が
 出てるといいなぁと思うんですけど」
「努力の方向が間違ってるだけだから結果はちゃんと出るわよ」
「う」


真面目なのに不思議な話よねぇ、と薄く笑って
メーゼはメルドより先に歩き出した。

彼女の後を追うように歩幅を広げてその後ろを歩く。


「メルド的に魔術はどうしたい?」
「魔術は・・そりゃ最低限は使えるようになりたいっすけど、
 今はまだ要らないかなと思ってます」

「ふぅん、理由は」
「剣と勉強だけでもう頭いっぱいなのに、
 魔術まで勉強するとパンクするかなって・・・」


レーシュテア高等学院1年 特戦科在籍、メルド・ラボラトーレ

レーシュテアの特戦科といえば割とエリート校だが
それを除けば一見、普通の男子学生である。

片や24歳にして元騎士団部隊長に闘技大会世界一、
現在は旅団ともあろう組織の幹部である十二使と異色な経歴を持つメーゼ。


「今日もコロシアムですか?」
「少しだけね。 その後用事あるから飛空艇乗るよ」


一見なんの繋がりもなさそうな2人だが、彼女はレーシュテア卒業生だ。
その上で現在、2人は師弟関係というものに当たる。

経緯はともかくメーゼの一番弟子、だったりするわけだが。

「ま、教えるのは得意じゃないけど
 コツさえ覚えさせたらどうにでもなるでしょ」

・・・過去にこの台詞を吐いた師であるメーゼは、
意外と雑に楽観視しているように伺えるが。


「まさか俺を迎えに来るためだけにこっち来たとか」
「流石にないない。 一応こっちも滞在2日目よ」
「仕事上がりっすか」
「大正解」


この師弟関係は半年にも満たないがなんやかんや継続しているようだ。
さて、弟子の成長はどの道へ。





とんでも師匠と不器用な弟子



(その割には息1つ切れてないっすよね・・・なんで?)
(これくらい体力がないとやってけないんだもの)
(さらっととんでもないこと言いますよね・・ほんと。
 メーゼさん知ってます?)
(?)

(メーゼさん、うちで歴代最強生徒とか言われてるんですよ)
(嘘でしょ)
(いや、ほんとに)
(・・・・ ちょっと、はしゃぎすぎたかしら・・?)







レーシュテア高等学院
  今回の舞台。 寮制度があり 西方大陸の方に位置する

ミキ・クロシェット
  ラジオのMC兼、学院1年の放送委員
  剣という武器を所持していながら普通科に通う。

レーナ・メスィドール
  ミキと同じ学校、同じクラスの普通科に通うレーナ。
  彼女も元は現代設定だった、日本名は七江麗那。

普通科・特戦科
  高校から導入される。 通常通り授業を受ける普通科と
  通常授業受けつつ、戦闘訓練を受けれる特戦科。

メルド・ラボラトーレ
  特戦科に通う1年。 勢い余ってメーゼに弟子入り
  授業態度も実技も真面目に取り組むが要領悪くて報われづらい。

アルト・ディーレ
  特戦科1年。 実技以外ではめっちゃ不運、怪我は友達。
  戦闘スペックはRPGでいう王道主人公。 戦闘スペックは。

ツカリ・グローザ
  『ハイクロ!』でお便り出してたペンネーム・リツさん
  特戦科3年で傘少女でお馴染み(?) 無論武器は傘

メーゼ・グアルティエ
  もう言わずもがなチート枠。 旅団十二使『夜桜』。
  レーシュテア特戦科の卒業生。 初めて弟子取った

コロシアム
  イベント時には対人対魔等の闘技場として盛り上がる場
  普段は訓練所や戦闘スペースとして解放している





 

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