創作世界

□彼と彼女の通話事情
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うつらうつらと眠りにつきかけたところで、
サイドテーブルを揺らすバイブ音に意識が引きずられた。

右肩を下にしたまま眠気で開かない瞼で、
サイドテーブルへと手探りに左腕を伸ばす。

テーブルに手が当たり、振動の原因となっている機器を探す。

指先に当たった振動に機器を手に取り、
重い瞼を薄く開いて、小さい画面を見た。

通話の掛けてきた主を確認してから、
通話ボタンを押すと振動は止んだ。 口元に機器を寄せる。


「……はい、」
「”……すまない、起こしたか? 眠そうだな”」
「いえ……、だいじょうぶ、です」


機器に埋め込まれた内蔵スピーカーから、久々に聞いた気がする彼の声。
定期的に連絡を取り合う、私の師匠で、私の好きな人だ。

瞼を閉じたまま機器を片手に、音声に耳を傾ける。


「”時間が空いたから掛けてみたんだが……声が寝てるな”」
「……本当に、寝る直前だったから……すみません、」
「”いや、俺もそっちが夜だとは思わずに悪かった。
 ……寝る直前? フィアナ、今お前どこに居る?”」

「今はメイチェの方に、」
「”メイチェ? 道理でな”」
「クロウさんは……今どこに、?」
「”フリジエ。 飛空艇が要らん距離だな”」


くつくつと笑みを零すクロウさんに、口元を緩めるように笑う。

メイチェとフリジエは陸続きの上、移動の難所もない。
馬や馬車で移動できてしまう距離だ。 流石に徒歩では厳しいが。


「ふふ、頑張れば会えちゃいますね」
「”とはいえ今日はもうこの時間だからな……明日だな”」
「……明日は時間あるんです?」

「”あると言えばあるし、無いと言えば無いな”」
「なんですかそれ、」
「”お前が迎えに来てくれてもいいが”」
「それは流石に逆のような」


苦笑いを零すと小さく笑ったような声がした。
からかわれている気がする。

体を起こし、暗闇に慣れてきた目でサイドテーブルに置いていた時計を見る。
もうすぐ日付が変わる、ところだった。

……この時間まで依頼だの書類だの処理してたのだろうか、


「”まぁ明日くらいには顔を見に会いに行くとするさ”」
「……クロウさんって、意外と私のこと
 気に掛けてくれますよね。 ちょっと不思議です」
「”……嫌か?”」
「まさか。 寧ろ嬉しいです」


……貴方からの『もの』が、嫌なわけがないのに。
なんて言葉は口にせずに小さく笑った。

少しだけ眠気が覚めてきたかもしれない。
先程よりも意識がはっきりしていた。


「”何故だろうな。 お前が気に掛けたくなる人柄だからではないか?”」
「私そんな危なっかしいです?」

「”いや、そういう意味ではなく。
 ……お前の質問の意図として答えるなら、今のところは”」
「あ、今後やらかしそうってことですか?」


冗談交じりに笑うと「いや」と一言、更に否定の言葉。


「ふふ、冗談ですよ。 でもそうだったら言ってくださいね」
「”お前なら大丈夫だと思うが。 訓練もいいが程々にな”」
「はい」
「”フィアナから何か言いたいことはあるか?”」

「そうですね、……明日、いつ会えます?」
「”俺の努力次第だな”」
「意地悪ですね、もう……そんなことばっか言ってると押しかけちゃいますよ」

「”ふ、確約はできないが昼か夕方には”」
「了解です。 お忙しいようですが無理はしないで、」
「”あぁ”」
「……後、なんだろ……」


他に何か言うことあったかな、

機器を右手に持ったまま、思考を巡らす。
小さく息を吐いた気配、と含み笑いのような、そんな雰囲気。


「”明日会えるだろう”」
「……そうですね、明日話します」
「”起こして悪かったな”」
「いえ、 寝る前に声聞けてよかったです」

「”ならいいんだが。 ……おやすみ”」
「はい、 おやすみなさい」





彼と彼女と通話事情



(何を見てるんだ?)
(わっ! く、クロウさん……いきなり背後はやめてください、
 いろんな意味で心臓止まります……)
(ふ、それは一大事だな)
(もー……ふふ、お変わりないようで何よりです)

(フィアナもな。 ……装飾品見てたのか)
(異国にしかない物って物珍しくてつい……可愛いものも多いし、)
(そういやお前は装飾品を着けてないな。 邪魔なのか?)
(邪魔っていうか……戦う時に落としてしまいそうなんですよね
 だから欲しい物があっても、購入に躊躇っちゃって……)







フィアナ・エグリシア
  好きな人の邪魔になったら嫌だなぁ、って連絡入れない人。
  弓はクロウの同僚の友人に教えてもらった。 教え半分独学半分。

クロウカシス・アーグルム
  好意を知りつつフィアナを気にかけて連絡入れる人。
  彼女がまともに戦えるようになった期間の短さに驚いている。

通話機器
  通話できてラジオも聞ける小型電子機器。
  スピーカー&マイク内蔵。 一般人の連絡手段。

紅葉の街メイチェ
  紅葉の絶景が素晴らしい東方大陸に位置する街
  フリジエから馬で1時間飛ばしたら到着できるかな

桜の街フリジエ
  よほどなことが起こらない限りは基本いつも桜が咲いている。
  クロウ曰く流石に満開時期は過ぎてたらしい。



 

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