創作世界

□レーシュテア卒業組
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「あら……」


メーゼさん、と名を言いかけたところで、彼女は口を噤んだ。


アルヴェイド王国、王都ラクナーベル。

王都で依頼を受けたフィアナは討伐すべき魔物の事前情報を入手しようと、
資料を探しに旅団支部の2階へと上がったところだった。

今先程上ってきた階段と、3階へと続く階段を右手に
2階中央にはいくつかのテーブルと椅子、壁側にずらりと並ぶ本棚。

ローテーブルとソファが2組あるその一角に、
見覚えのある長い海色のような蒼い髪を見た。

彼女はできるだけ音を立てずに移動し、ソファに座る彼女の様子を伺う。

遠目ながらも眺めた彼女、メーゼの横顔は
瞼が閉じられており、眠ってるようだった。


「(この方も忙しいな……お疲れ様です)」


少し瞼を細めて眠るメーゼに労い一言を心の中で唱え、
フィアナは起こさないようにと極力足音を忍ばせて、本棚に向かった。

先程受付の人にメモしてもらった紙を左手に、
右手で資料を順に指しながら目的の資料を探す。

前で戦うことが苦手な彼女に事前情報入手は必須だった。

戦い慣れて、確実に勝てる魔物ならともかく、
勝利が難しそうな魔物相手からはひたすら逃げているから。

前衛の方が居るとはいえ、何も知らないのは流石にまずいだろう。
弱点属性くらいは把握しておかなければ、との理由で支部2階。

旅団支部の2階は依頼関係の話をする場、
旅団がまとめた魔物資料などが本棚に置かれていることが多い。

王都ともあろう大きな支部なら尚更だ。

資料に指を当て、目的の物を探し出していく。
ふとフィアナの手が止まり、右手人差し指を資料に引っ掛けた。

目的の資料を見つけたらしい。

彼女はファイルに入った資料を手に取ると、
資料に指当てつつ、必要そうな情報を探しながら読み進めていく。

軽快に上ってくる階段の足音を耳にし、フィアナは資料から顔を上げた。


「あれっ? フィアナ居たんだ」
「あら、ディスさん」


階段の方に振り返り、姿を確認。

黒のノースリーブタンクトップ姿に、色鮮やかな紫色の髪が揺れた。
普段彼が羽織っている上着は腰に巻いているらしい。

彼女よりも年上に伺えるか、ディスは「何見てんの?」と口にしながら、
フィアナの持っていた魔物資料に顔を覗かせた。


「魔物一掃の討伐任務に、私も参加することになって」
「あぁー、今受付で人員募集してるあれか。 フィアナも参加すんだ」
「いい経験になるかなと思って」


フィアナはそう伝えて笑みを浮かべると、彼は「熱心だね」と笑いながら、
応援するようにフィアナの背中を軽く押した。

ぽん、と沿えられた手は心なしか温かく、どことなく安心感を覚える。


「因みにそれ、俺も参加すんだよ」
「あ、そうなんですか?」
「そ、メーゼが手ぇ空かないから代打で。
 最前線になりそーだからさぁ、今から骨が折れそうな思い」


そう言って瞼閉じて、唸るように額に手を当てるディスに
彼女は「あぁ」なんて納得したように苦く笑った。

片手で数えられるほどの回数だが、
彼女はディスと共に依頼をこなしたことがある。

フィアナ自身、戦闘に関してはまだ初心者の枠を抜け切らない。
それを差し引いたとしても、彼の攻撃力は凄まじかったのだ。

彼が名を出した、今ソファで休む彼女が仮に一掃任務に参加したとしても、
ディスが最前線になるのは自然、周りからすれば「当然」なのかもしれない。


「でも複数相手できるのいいですよね。 私は弓なものだから、
 一体多なんて形になると、どうしても捌ききれないことが多くて」
「弓はなぁ、前衛ありきだから正直1人はお勧めしねぇや」
「よく言われます。 ただ私自身初心者なので、
 慣れている方は合わせづらいかも」

「前衛筆頭のクロウとはどれくらいの頻度で行動してんの?
 アイツならフィアナにも合わせられるっしょ」
「うーん……2週間に1度、3日か4日くらいでしょうか?」
「クロウ含めて他の奴等と行動するのは?」
「1週間に3日くらいですかね……?」

「半分以上がソロかぁ、もーいっそクロウに引っ付いたら?」
「あまり彼の邪魔はしたくなくて」


ディスの言葉に笑いながら、フィアナは手に持ってた資料を閉じる。

彼の提案は、本来なら実際に起こっていても不思議は無かった。
彼女はクロウと呼ばれた人物から「来てもいいが」と言われていた。

けどフィアナは、想い人からのその提案を断ったのだ。

彼女の回答を聞いたディスは、
「まーフィアナらしいけど」と小さく笑った。


「フィアナがもう少し年近かったら後輩だったんだけどなー。
 卒業したのレーシュテアっしょ?」
「あら、私普通科ですよ?」
「あ、そうだった。 学年違いで科違いなら会う機会ねーよな」

「その代わりと言ってはなんですが、今絶賛ディスさんの後輩ですし」
「はは、まぁね」


笑いながら答えたフィアナに、頷いてみせたディス。
その会話に一区切りつきそうなところで、第三者の声が割って入った。


「お時間いいの?」


旅団支部2階、ソファに座って休んでいたはずのメーゼが
ソファの背もたれと自らの肩越しに、2人の姿を見つめてた。

眠っていたかのように思われたメーゼの声はハッキリしていて、
寝起きらしい声は一切感じさせなかった。

その姿に気付いたディスが「あ」と言いたげな表情を浮かべる。


「そーだ、俺メーゼ呼びに来たんだったわ。 眠れた?」


ぱたぱたと2階を歩き、メーゼの座るソファの方まで歩くディス。
メーゼは少し息を吸い込んだ後に吐き出した。


「休憩にはなったかな」
「お前ほんと寝ないよな……休憩になってんならいいけど」


ソファから立ち上がったメーゼは少しだけ身体を動かした後、
2人の様子を伺っていたフィアナへと目を向けた。


「フィアナは魔術も充分使えるし、足引っ張りにはならないわ。
 辛いところは他の人に任せて、できることやってきなさい」
「ふふ、ありがとうございます。
 メーゼさんにそう言われると自信付きますね」


蒼い髪を揺らして、小さく細められる藍色の瞳と微笑む表情。
とんでも人間である彼女からのお墨付きだ。

フィアナの笑う表情を見て頷いたメーゼが
「そろそろ、」と傍に立つディスに声を掛ける。

「そうだな」と頷いたディスは支部の1階へ続く階段へと向かい、
メーゼのその後を追う。


「お二人はこれから依頼ですか? ……にしては、」


あまりにも充分すぎるメンバーのような。

ディス1人でもここいらの魔物には苦戦などしないだろうし、
メーゼに至っては数十匹にも及ぶ魔物を数分で蹴散らすような人だ。

ディスは階段手前で立ち止まると、彼女の質問に答えた。


「対人の可能性含むからメーゼと一緒なんだよ」
「あら、それは……」
「はーぁ、フラーっと立ち寄ったら捕まるし。 人使い荒いよなぁ」
「大部分は私が相手するんだから愚痴らないでよ」

「あはは。 どうかお気をつけて」
「ん。 またなー、フィアナ」
「また今度」
「行ってらっしゃいませ」


手をひらひらとさせて階段を下りていくディスと、
小さく手を上げたメーゼの背を、フィアナは手を振りながら見送った。





レーシュテア卒業組



(今もうフィアナの制限って外れてんだっけ?)
(街道は1人で通るらしいわ。 クロウからの連絡だと
 街道通る際に数種類は勝てない魔物が出るそうだけど)
(怪我の話をあんま聞かないっつーことは、逃げ切れてるってことだよな?)
(ふ、風属性特化の利点ね)

(フィアナが習い始めて……4ヶ月か。
 ……この期間でそれなら充分すぎるよな?)
(そうね。 充分すぎるわ)
(上限どこっつってたっけ)
(貴方の後衛くらいは普通に務まるんじゃない?)






ある設定を調整したため、会話内容そこそこ変わった。
タイトル変更候補


アルヴェイト国 王都ラクナーベル
  南方大陸屈指の大国アルヴェイト。 王国直属の騎士団もある。
  現在旅団支部にて魔物の一掃任務に、旅団員・傭兵問わず募集中。

旅団支部
  王都大通りに面する3階建ての旅団支部。
  1階は受付、2階は資料置き場、3階は旅団関係者用の休憩所と執務室

フィアナ・エグリシア
  弓習い始め半年満たないくらいの19歳旅団員。
  伸び方が凄まじい。 最終的には結構な戦力になるとメーゼが予想。

メーゼ・グアルティエ
  休憩取ってた十二使。 クロウと会う頻度が高いため、
  クロウの近場で活動するフィアナともそこそこな確率で鉢合わせする。

ディス・ネイバー
  メーゼ呼びに来た旅団員。 十二使である彼女の腐れ縁。
  フィアナが伸びることはなんとなく気付いた。

魔物一掃の討伐任務
  旅団員の任務や移動ついでの討伐程度では、魔物の数は
  増える一方なので定期的に行われる。 王都近辺ゆえ騎士団も参加する。

クロウカシス・アーグルム
  フィアナが戦うきっかけ、の事件に鉢合わせした。
  「大人しい顔してあれだけ戦えるのか……」と神妙な顔するのは笑える。

レーシュテア卒業組
  実は登場人物3名は同じレーシュテア高等学院卒業。
  腐れ縁2人とフィアナは5学年離れているが、ド真ん中にエルフィが入る





 

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