創作世界

□『夜桜』と呼ばれる彼女
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彼女から桃色を連想することはまずないだろう。

蒼く長い髪、藍色の目と白い肌。
茶や緑と少ない落ち着いた色でまとめられた服。

属性は風が特化しており、武器は長い刀身の剣。
その上騎士団部隊長に旅団十二使と、とんでもない肩書きを持つ。

ああ見えて全うな人には人当たりはいいし、気にも掛ける。

しかし彼女を知る者に、彼女の性格を聞けば
皆が皆、口を揃えて「クール」と答えるだろう。

容姿、属性、武器、経緯、性格 どれを取っても暖色系より
青、水色、緑などの寒色系のイメージが強い彼女。

そんな彼女の異名をご存知だろうか。


「『夜桜』」


ある建物の一室、窓から外の様子を眺める
メーゼの後ろから男性の声が掛けられた。

彼女は顔だけ振り返り、肩越しに声の主を確認してから視線を窓辺に戻す。


「先日はご苦労だったね。 大変だったろう」
「別に・・・ まぁちょっとまずかったけど。
 結構な手練揃いよ。 あんなのお遊びの範囲じゃないわ」


左腕を広げて呆れる姿を取るメーゼに、
男性は笑いながら近づき、メーゼの左隣に立ち窓の外を眺めた。

男性の顔立ちは良いものの年を食っており、40前半くらいだろう
くるくると天然に巻かれた茶髪と四角の眼鏡。

顎は数センチほどのひげが生えていて、
身なりは煌びやかな高級品とまでは行かずともキチンとしている。


「何か動きはありそうだったかい?」
「んー・・今のとこは別に? 様子見って雰囲気もあったし、
 なり潜めてるって雰囲気もあったよ」
「君が艦1つ墜落させかけたからじゃないのかい」
「かもね?」


薄く笑うメーゼに、隣に立つ男性は肩を上げた

聞いた報告では客が乗る飛空挺に、小型艦から攻撃が仕掛けられ
メーゼは飛空挺内に居る魔術師を集め、
攻撃の砲撃無効化からの小型艦の墜落未遂に至ったとか。

全く、人間がやるようなことじゃない。

指揮力もさながら彼女の信頼の厚さ、寧ろ彼女の存在自体に舌を巻くほどだ。


「全くよくやるよ。 怪我はしなかったかい?」
「ん、多少負ったけど無事」
「あぁ、これで無傷だって返されたらどうしようかと」
「いやいや、流石にそれは難しいわ」

「因みにどこかな?」
「左腕と左膝。 それと右頬かすったのよね」
「・・・いや、組織乗り込んでかすり傷で済むって君ね」
「対人で致命傷負うような人間なら大会で優勝はしてないわ」


しれっと言い切り、浅く口元に笑みを浮かべるメーゼに
男性は顎に手を当てて少し悩んだ動作をした。

彼女は男性に伺うような雰囲気で問う。


「それとも大きな怪我負った方がよかったの?」
「まさか。 正直無茶な依頼かなと思っていたから、
 メーゼと言えども一筋縄じゃ行かないと予想してたんだよ」

「ふふ、予想を裏切るのが私だって貴方言ってたのに。
 ディスは『まーかすり傷だろうなぁ』って言ってたわよ?」
「君達の感覚は私には分からんよ」
「・・そんなに感覚ズレてるのかしら。 可笑しいわね・・」


可笑しいのは君の方だけどね、と男性は思ったものの
脳裏に思い浮かんだだけで、それを言葉にすることはなかった。

人間で生まれてきたことが不思議に思うほどの戦闘能力を持つ彼女が。

一度だけ十二使の戦力把握で彼女の全力を見たが
それはもう神獣ですら、彼女の圧力にはたじろぐものがあるだろう。

とんでもない人材を引き入れてしまったものだ、
彼女が旅団に入ってから何度舌を巻いたことか。

彼女の肩に掛かっていた蒼い髪が前に流れた。


「それにしても『夜桜』か。 勝手に定着してしまった上に
 自分がそう呼ばれて反応してしまうのが少々不覚だわ」


眉を寄せて小さく息を吐き出すメーゼ。
それを男性が横から様子を伺った


「おや、何故だい? 君らしいと思うが」
「どこが」

「舞い落ちる桜の如く掴めないとこ。
 八重でも枝垂れでも山でもなく『夜』であること」


人差し指を立てて、諭すようにメーゼを見る男性。
彼女は納得いかないと言いたげな表情で眉を寄せた。


「ふふ、フリジエは君に似合いそうだね」
「・・ハイノとは絶対に行かないわ」
「おや、酷い」


ハイノと呼ばれた男性は、軽い様子で笑って流した。
メーゼは眉間に皺寄せて、1つ深く息を吐き出す


「お話はそんだけかしら」
「それだけだね。 まぁ理由としては報告を聞きに来たというより、
 たまたま近くに居たから、様子伺いに来たって方が強いけど」

「おじさんくさいわねぇ」
「おじさんか。 参ったな、もうそんな年か」


困ったように短く生えた顎ひげに、曲げた人差し指を当てるハイノ。

メーゼは180度向きを変えて、窓に背を向け、
窓縁に両肘を置いてハイノの様子を見た。


「また用事があったら連絡入れるよ。
 それまでは好きに動いてくれて構わないから」
「はいはい、旅団長の仰せのように」


部屋の隅に視線を投げて大きく息を吐いたメーゼに
ハイノは薄く笑いながら、その動作様子を見ていた。





『夜桜』と呼ばれる彼女



(最近クロウが行動と一緒にしてる女旅団員の話は聞いてる?)
(あぁ、報告は受けていたよ。 えっと・・誰さんだったかな)
(フィアナよ。 フィアナ・エグリシア)
(あぁ、そう。 その子だ、君も承認に一役買ったとも聞いてるよ)

(クロウが私の方が見えるから、って理由で付き合わされてね。
 彼女の伸び方がなかなかなのよ、一度見てみるといいわ)
(・・・君がそう言うのは珍しいね)
(・・性格面では結構彼女のこと買っててね。 贔屓票はあるかも)
(おや。 それはまた珍しいね・・)






某設定調整に付き会話微修正


メーゼ・グアルティエ
  『夜桜』の異名が付いている旅団十二使。 例のチート
  この間、魔術使用で小型飛空挺を墜落させかけた。

ハイノ・エルンスト
  お馴染みの旅団長を務めてる40過ぎくらいのイケおじ。
  ちょっとしたとこの坊ちゃん。 兄が1人いる。

ディス・ネイバー
  ある組織に乗り込んでかすり傷で帰って来たメーゼに
  「かすり傷だろーなぁ」としれっと言っちゃったメーゼの腐れ縁

桜の街 フリジエ
  八重桜も山桜も枝垂れ桜もなんでもある。
  春シーズンじゃない時は魔力で維持してる

フィアナ・エグリシア
  剣好きの書き手からすれば貴重な後衛。 弓使い19歳。
  あまり関わらないながらもメーゼからは充分評価されてる。

クロウカシス・アーグルム
  最早フィアナの話になるとこの人の名が出てこないことはない
  旅団十二使『氷軌』 氷特化の26歳剣士





 

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