創作世界

□柑子色と白金色の初対面
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「お、初めましての子発見」


空を飛ぶ飛空挺の中に設置された談話室。
初めて見るオレンジ色の長髪、少女らしき後姿を発見。

ソファに1人座り、両耳でイヤホンしている女の子。
先程の言葉と同時に屈んでお顔を拝見した。

突然の声と私の姿が視界に映って驚いたのか、目を見開いて私を確認した。

ピンクがかったオレンジの綺麗な髪、
驚いて見開かれた目は緑、いや、エメラルドみたいに綺麗だった。

これはまた随分とお綺麗な。

私が小さく口笛を吹くのと同時に、
少女はイヤホンを耳から外し、改めて私と顔を見合わせる。


「驚きました・・何か御用でしたか?」
「んーん、見たことない子が乗ってたから
 ちょっと声掛けてみただけ。 お時間空いてる?」
「はい、大丈夫です」
「よかった」


その言葉に少し安堵し、彼女の座るソファの後ろを回り、
彼女の右隣のソファに腰を下ろした。

帯に挟んでいた両脇の武器はソファに立てかけて。
対面の窓には空と雲が映る。


「んじゃ改めて初めまして。 旅団員、エルフリーデだよ」
「エルフリーデさん」
「そ。 エルフィかエルで通してるから好きな方で呼んで」


私の言葉を聞いた彼女は少し顎に手を当てて、
悩むようなポーズをした後、顔を上げて「ではエルさんで」と告げた。


「フィアナ・エグリシアです。
 先月からこちらの旅団に席を置かせていただいてます」
「フィアナね? 先月辺りっていうと・・・新卒?」
「いえ、高校は去年卒業でした」

「あ、去年か。 特戦科卒業?」
「いえ、普通科を」
「・・・・普通科?」
「普通科です」


予想外の言葉に思わず疑問符を付けて聞き返す。

彼女はけろっとした表情で返すけど、
ちょっと待って、去年卒業ってことは今19?


「普通科卒業から1年ちょいで旅団員?」
「2ヶ月くらい前から戦闘指導を受けてます」
「2ヶ月!! え、質問攻めでごめんね? 武器何か訊いていい?」
「弓なんですが、えっと」


足元に置いていたらしい鞄を漁り始めるフィアナ。
その様子を若干口を開いたまま見つめていた。

ソファの肘置きに右肘を置き、右手の平で口元を押さえる。

・・はぁ〜、優しげな笑顔でこれまたとんでもない子が。
訊きたいことがありすぎる。

フィアナは鞄から、弓とは思えないほど
短い太めの筒のような棒を取り出して席を立った。

「よっ」と一言、フィアナが筒の平らな部分を叩くのと同時に、
叩いた部分から弓の部分が飛び出る。
同様、反対側の平らな部分を叩くと弓そのものに。

なるほど、珍しい伸縮できるタイプか。

しかしこれは戦闘2ヶ月目が使う弓にしては・・・


「これはまた随分と立派な奴だねぇ」
「頂いたんです。 武器は使い慣れるものだからって」
「なるほどねぇ・・せっかくなら特戦科行けばよかったのに」

「ふふ、特戦科だったらエルさんの後輩だったのに?」


立ったまま弓を縮小させながら、話に笑みを浮かべながら返事するフィアナ。

一瞬で話の内容が飲み込めなかったエルフリーデは「ん?」と一言
弓を鞄にしまう動作のフィアナを見上げていた。

鞄に弓をしまった彼女は、先程座っていた席、
エルフリーデの左隣のソファに腰を下ろす。

疑問符を浮かべたままのエルフリーデに、フィアナが顔を合わせた。


「卒業したの、レーシュテアなんです」
「・・・あっ。 そっか、去年卒業したってことは2つ下か!」
「はい」


手の平に握り拳をポンッと置き納得したような表情のエルフリーデ。

頷いたフィアナにエルフリーデは
「そーいうことかぁ」とソファの背凭れに凭れながら背伸びをした。


「面と向かってお会いするのは今日が初めてですけどね」
「なーんだ、私のこと知ってたの」
「お名前と容姿で。 個人戦闘は学院1だったと聞いてて」
「あはは、個人だけだよ。 その分団体戦は苦手分野でね」


ソファに立てかけた双刃剣2本に手を添えるエルフリーデ。

この剣も随分と長いこと使っている。
とんでもない攻撃をこの剣で受けた時には折れたこともあったけれど。

ふと、ソファに座る2人の背後にある
この談話室へ出入りする扉がガチャリと開けられた。

フィアナとエルフリーデは同時に振り向く。
扉を開けた人物を見て、隣でフィアナが「あ」と一言呟く。

高めの身長、右側だけ長めに伸びた暗い金色のような髪色、
左耳にはシルバーのリングピアス。


「ん・・エルフィも居たのか」
「なんだ、クロウか。 同じの乗り合わせるなんて珍しいねぇ」
「そうだな」

「・・・お知り合いですか?」
「まぁね」


フィアナの疑問符にエルフリーデが頷く。

クロウこと、クロウカシスは辺りを見渡して、
彼女達以外に人が居ないことを確認して部屋に入った。

机を挟んでフィアナとエルフリーデの対面に座るクロウ。


「フィアナとクロウこそ知り合い?」
「先程お話してた戦闘指導してくださる方です」
「・・・・冗談」

「彼女がそんな嘘を付くように見えるか」
「見えない」


エルフリーデはその一言を言った後、目元を手で覆った。

世界的組織で12人しか居ない幹部の一角を担う
旅団『サファリ』の十二使 クロウカシス・アーグルム。

戦闘をメインとする組織の幹部ともなれば、
当然旅団員とは桁違いの戦闘能力を誇る。

その桁違いの戦闘能力を誇る、言ってしまえば化け物レベルの
十二使から戦闘指導受けてるとなると。

・・・あぁ、つまり最初に驚いた2ヶ月はこのクロウの影響?


「また凄い子を弟子に取ったね」
「あら、弟子と呼ばれたのは初めてです」


太腿の上で合わせた両手、曇る気配のない笑みに
隣でその表情を見ていたエルフリーデは何度か瞬きをした。

教え方が良いのやら、それとも飲み込みが早いのやら。

何はともあれ戦闘1ヶ月で旅団というのは異例だが、
クロウカシスという男が指導者なら無くはない話なのかもしれない。

数ヶ月後の彼女は一体どうなっているのやら。

小さく息を吐き出したエルフリーデがふと顔を上げる。


「そういえばさ。 お二人はどこ行き?」
「俺がハーフェンの方に呼び出されているな」
「はー、あの首都か」

「エルフィは?」
「ん、帝都の方行きたいなって」
「随分と珍しいとこへ行く。 どういう風の吹き回しやら」
「支部が捌けてないんだってさ、依頼の」





柑子色と白金色の初対面



(そういえばクロウ、なんかフィアナに用あったんじゃないの?)
(私ですか?)
(あぁ。 図書室にあった)
(・・あら、スクリ・グラペウス。 悲劇シリーズね)

(悲劇シリーズ?)
(知ってるのか。 フィアナがスクリ著に興味があったらしくてな)
(それでアンタ悲劇シリーズ勧めるの・・私も好きだけどさぁ)
(ひ、悲劇シリーズ・・・・ですか)







エルフリーデ・レヴェリー
  愛称はエルフィ、エル。 彼女もレーシュテア高等学院特戦科出身
  今年22歳。 クロウに敬語胡散臭いなと言われて使うのやめた。

フィアナ・エグリシア
  この時点で戦闘指導2ヶ月、旅団員1ヶ月経過。
  忙しいクロウに同行し、あらゆる場所へ行く。 本人は楽しそう。

飛空挺
  旅団が提供する移動手段の1つ。 旅団員には割引される。
  談話室、宿泊部屋、図書室、遊技場、更には防音室まで完備。

レーシュテア高等学院
  特戦科に力を入れている西方大陸にある高校。
  あのメーゼもここを卒業。 在校生はミキ、メルド、セリア等。

クロウカシス・アーグルム
  十二使の一角を担う『氷軌』 フィアナに戦闘指導を行う。
  エルフィとはたまにすれ違う印象強く記憶に残った旅団員の1人。

旅団サファリ
  彼女達やメーゼ等の旅団メンバーが参加する世界的組織。
  旅団の名前決まるの遅かったです、主要団体なのに。

港町首都ハーフェン
  西方大陸に存在する港町兼共和国首都。 ただ流通の良さからか
  ひっそりと転売や裏市場、闇取引なども行われる。

帝都レーヒル
  西方大陸に存在するグリフィン帝国の帝都。
  軍事システムあるといいなぁって思ってる。

スクリ・グラペウス
  小説家。 暗いのから明るいのまで幅広く書く
  その中でも悲劇シリーズはスクリ傑作とされる。 悲劇だが。



 

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