創作世界

□メルドの夏休み
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メルドの夏休み 8



無人につき全く人の手が入らない街は荒んでいた。

遠巻きながらも山崩れの名残があり、
想像とはいえ当時のことが微かに脳裏に映る。

腰のベルトに剣を携え、肩には荷物を掛け、
両手には余るほどの風呂敷を手に、メルドはラヴァリーを見上げていた。

人工の光が一切無い街は既に薄暗く、色褪せた建物が佇んでいる。


「・・・孤児にパンを、ってことでしたけど」
「うん」
「どこ、に居るんでしょう・・」


街を見つめたまま、どう動いていいか分からずにその場に立ち尽くすメルドに
横脇に立っていたメーゼが微かに笑みを見せる。


「・・心配しなくても、ちゃんと出迎えがあるみたいよ」
「え? ・・・あ」


メーゼの言葉に、メルドが再度街並みを眺めると
建物の影から心配そうな表情をしている小学生ほどの少年少女の姿が2人。

あ、 と呟き、2人の少年少女に近づこうと足を踏み出すメルド。

その動作を感じ取ったのか、影に居る2人はびくりと肩を揺らして、
すぐさま建物の影に引っ込んで行った。


「あ・・、あー・・・行っちゃった・・」
「・・・メルド、剣貸しなさい」
「え、あ、はい?」


疑問符を浮かべながら、腰に差していた学校の基準である剣を
メーゼに受け渡すと、彼女はその剣を右側のベルトに挟んだ。

その後「ん」と短く一言、少年少女の立っていた建物の方へと指を向ける


「追っかけてきなさい」
「えっ!? 了解です!?」


動揺しながらメーゼの言葉通りに先程の少年達の元へと小走りで向かう。
メーゼが彼の後を付いてくる様子はなく、入口へと凭れかかった。

大きな風呂敷を両手で抱え、少年達が引っ込んだ通路まで来ると
奥に小中学生ほどの少年少女の集まりが見える。

向こうも彼の姿を認識し、8名ほどかの少年達はこそこそと話し合う。
メルドは新緑色の髪を揺らして、気まずそうにその様子を眺めていた。

数十秒ほどして話が一段落ついたのか、少年達の中で一番年上と思われる
リーダー格らしい少年が2人、輪の中から抜けてメルドの元へと歩いてきた。

どちらも年齢で言えば中学生、くらいだろうか。
どうやら建物の影から覗いていた少年ではないらしい。

男の子にしては長い、肩ほどまで伸びた藍色の髪の無口そうな少年と
オレンジ色の髪が散らばった気の強そうな少年の2人だった。

メルドは小さく息を呑む。

一回り年下であるにも関わらず、少年の目はどことなくギラついていた。


「・・旅団の人?」
「あ、はい。 カンパーナのパン屋さんから・・これ渡すようにって」


持っていた風呂敷を少年達が受け取ると、
オレンジ髪の少年が小さく「ありがとう」と呟いた。

メルドは小さく安堵したように息を吐く。

よかった、とりあえず渡すことはできた。
一応依頼は達成だ。 これで良いのかは分からないけれど。

2人の少年は顔を見合わせる。
オレンジ髪の少年がメルドの顔をじっと見つめて口を開いた。


「見ない顔だな」
「高校生で・・昨日旅団の手続きしたばかりだから、」
「高校・・・特戦科?」
「はい、一応・・はい」


少年の質問にメルドは答えていくが返事が覚束ない。
藍色の髪の長い少年が更に口を開く。


「あなた、強い?」
「え゛。 ご、ごめんなさい 俺は正直・・その。 1年だし、」

「・・・どうする?」
「あなた以外にもう1人来てるって聞いてる」
「あ、メーゼさん・・?」

「その人、強い?」
「めちゃくちゃ強いです」
「・・だってさ」
「いいんじゃね? できるんなら誰でも。 いつまでもほっとけねーよ」


少年2人のやり取りに疑問符を浮かべるメルド。
藍色の髪の少年が頷くと、その子はメルドへと顔を上げた。


「今困っている。 戦える人がいい」
「もう1人の方? 呼んできてくんねーかな」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」


メルドは2人に手の平を見せると、来た道を小走りで戻っていった。
少年2人は立ち話をしていた場所へ風呂敷を持って戻っていく。

入口付近まで来ると、地面に同化しそうな茶色の大きな魔術陣。
門に手を触れていたメーゼが、メルドに気付いた。


「あら、終わった?」
「あ、本題は終わったんですけど・・メーゼさん呼んできてほしいって」
「私?」
「なんか、困ってるっぽくて・・? 戦える人がいいって」


メーゼは少し瞬きを繰り返した後、門から手を離す。
次第に地に現れていた茶色の魔術陣はその姿を消した。

右側のベルトに差していたメルドの剣を引き抜き、持ち主に返すと
少し考えた表情を浮かべながら、メーゼは街へ入っていった。

その後をメルドが追いかけていく。

くたびれた街を照らしている夕日は、随分と傾いていた。







メルド・ラボラトーレ
  自分に対して強いかと言われたら、どもった上で否定するが、
  メーゼの話になった瞬間即答できるのは「明確」であるから。
  どっちつかずとか、恐らくとか多分とかが苦手なのかもしれない?

メーゼ・グアルティエ
  メルドから剣を借りた理由が、孤児達の警戒を払うための手段の1つ。
  「いつも来る人が決まってる」場所に初見が2人は、って思ったゆえの。
  門に手触れてたのは、設置されてる魔石の魔力補充。

孤児の少年少女
  リーダー格はメルドと話していた2人の少年。
  名前は考えている(決まってない)
  多分最年長が14歳くらい、最年少が9歳くらいか?





 
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