創作世界

□メルドの夏休み
11ページ/16ページ






メルドの夏休み 9



孤児達に呼ばれて古びた街中を歩いていくメーゼの視線の先に、
先程メルドと対話していた少年が2人、その後ろに更に6名。

頭1つ分以上身長差のある子供達と対話できるほどの距離に来たメーゼは、
孤児達に視線を向けた後、表情を和らげた。


「困り事があると聞いたわ。 何かしら?」
「街に、1匹魔物が紛れ込んでる」
「それ倒してほしくってさ」


藍色の髪の少年と、オレンジ髪の少年が続けて答えていく。
メーゼはふむ、と小さく頷いた後、再度質問を続けた。


「どんな魔物か分かる?」
「・・あ、あの あのね・・ おっきな犬、みたいな・・・」
「犬?」


メーゼの質問にリーダー格らしい少年2人は答えず、
その代わり後ろの子供達に紛れていた小さな女の子がそう答えた。

補足するように、藍色の髪の少年が口を開く


「・・・おれは直接見たんじゃないんで分からないんですけど、
 この子の話を聞いている限り狼種かなと」
「まぁ夜行性だものね、放っておけないわ。
 今、その魔物がどこに居るかは分かる?」

「・・・・」
「流石に、」
「成程、分かったわ」


メーゼは大人びた表情で小さく微笑むと、
手前に居る少年2人の頭へと片手ずつ手を置いた。

少し驚いたように目を開く少年2人、


「メルド、その子達に付き添ってあげてて」
「あ、はい」


メーゼは2人の頭から手を離すと、孤児達の傍を通り歩いていった。

ラヴァリーの中心部へと向かうメーゼの後を、
一定距離を保ちつつ追いかけていく孤児達とメルド。

メーゼはある程度歩くと足を止めた。
中心部、交差点。

この地点からすぐ、十数メートル先には
山崩れた後らしい名残があるのが見える。

崩壊した建物を視界に入れたメーゼは、
普段愛用している長剣を、腰に下げていた鞘から引き抜いた。

銀色に輝くスラッとした細い剣身が姿を見せる。

剣身を地に向け、メーゼは目を伏せた。
ゆっくりと息を吐き出す。

彼女の足元からじんわりと、白い魔術陣が現れ、
時間が経つごとにその陣は広がっていった。

彼らの地点から目視できぬほどの距離を誇る白い陣。

メーゼの周囲には白い火花のようなものが、
パチ、パチパチと音を立てて彼女を纏っている。


「我が命により、その生命、姿を現せよ」


その声に反応するかのようにメーゼが纏っていた白い火花が勢いを増す。
風が吹いてもいないのに、彼女の長く蒼い髪が、海の波かのように揺れる。


「『サーカウト』」


詠唱、彼女がそう口に出すと白い火花は四方八方へと散り、
街全体に強風が吹き荒れた。

海のような髪色と、青緑のインナーの裾が揺れる視界に
1人佇むメーゼの後ろ姿。

風が止んだ頃、メーゼは孤児達とメルドの方へと振り返り、辺りを見渡した。

そしてメルド達から少し右の方へ。
ある一点へと顔を向きの固定し、何かをじっと見つめている。

メルドと孤児達が彼女が顔を向けている方向に目を向けると、
そこには筒状の光が一閃、空に高く昇っていた。


「ほ・・これ、何の魔術だったんですか?」
「ざっくり言えば生体感知かしら。 行きましょうか」


メーゼは小さく笑みを浮かべると長い髪を揺らし、
筒状の光がある方向へと歩き出した。

光の筒を見上げては「きれー・・」と呟いている孤児も居る様子。


・・・靡く海に纏う白い火花、 凛とした佇まいとその後姿、
脳裏に過ぎった、その一瞬は随分と印象的で、


「(・・確かに綺麗だった、)」


その感情を胸に秘め、目を伏せたのは誰だったか。







メーゼが長剣を鞘から出したまま、光の筒へと向かうこと数分。
光を発していたのはある一軒の建物だった。

喫茶店かレストランでも営んでいたのか、
入口の近くにはメニューの書かれた看板が倒れ込んでいる。

ふむ、と小さく呟くメーゼと、
彼女から少し距離を取り様子を眺めている孤児達とメルド。

刹那、ガサゴソとした物音と共に、
何かが割れたような高い音が建物内から響いた。

びくりと肩を揺らす孤児達。

藍色の髪の少年が、自らよりも背の小さい子の肩を抱き寄せ、
変わらない表情で彼女の様子を伺っていた。

長剣を握り直し、問題の建物へと近付いたメーゼは
戸の取っ手に指を掛け、悩むような表情を数秒。

全く人の手が入らないまま数年が経った建物の扉は、
流石に建て付けが悪くなっていたのか、
戸を少し動かしただけでギ、と鈍い音がした。

勢い良く扉を押して、直ぐ様軽快に後退するメーゼ、
直後、開け放たれた扉から筒状の光が伸びた黒い影が彼女へと飛び付く。

ヒュッと宙を裂く音と共に銀一閃。

微かな鈍い音と共に、黒い影は唸り声を上げて地に伏した。

黒い影から伸びていた光は、だんだんとその光を失っていき、
地に伏した影の首からは斬り傷が、傷口から赤黒い液体が流れている。

青混じりの灰色の毛並み、 三角に尖った耳、
垂れた尻尾に鋭い牙、 どこからどう見ても狼種だ。

剣を下ろし、一息ついたメーゼは狼種の魔物の前にしゃがむ。


「・・・・」


傷口を見せないためか、偶然だったのか、彼女は孤児達には背を向けており、
彼女がどんな表情を浮かべているかは捉えきれず。

彼女は魔物に直接触れ、何か調べているようだ。

尻尾、腹、背中、胴体、足、手、目・・・
粗方調べて、地に伏せられた耳に触れた時、メーゼの表情が変わった。


「・・・ピアス・・?」
「ピアス?」


小さく呟いたその声を、孤児達と共に待機していたメルドが拾った。
メーゼはそれには反応せずに、狼の耳に取り付けられた物を見つめていた。

ラヴァリーという街に紛れ込んだ1匹の魔物。
魔物の耳に取り付けられた金色のピアス。

明らかに異様な現状に彼女は1人、眉を寄せた。







メルド・ラボラトーレ
  今回メーゼターンすぎて何の仕事もしていない主人公(一応)
  いつだって掘り下げができないと唸っている。
  書いてれば増えるんじゃないかな思考(安易)

メーゼ・グアルティエ
  「メルドの夏休み」という作品の中で、今回初めて愛用の長剣を抜いた。
  因みに長剣の名はアスカローザ。 物理的な近接戦闘にも、
  高難度の魔術にも精通する。 「魔術は発想の勝利」と言った事がある

魔術
  今回メーゼが唱えたのは『サーカウト』 属性的には聖に割り振られる
  「探す(捜す)」辺りの外国語を混ぜ合わせた造語(案の定)
  メーゼはサラッとやってのけたが、相当高難度で行える人物は比較的少ない
  「探す」だけでは何を? って状況になるっつー話





 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ